第36話 すぐに連絡

「うん。そう。前に華梨が言ってた相談したいことがある、ってヤツ」


 桜場さんが目の前で電話をしていた。彼女に俺の事情について話すと、医者であるお姉さんに伝えることを了承してくれた。その後なんだかんだ言いつつ、すぐ連絡を取ってくれていた。


「相談したいって言ってる友達が、同じ学年の男子で。うん。今日は、家に帰るのは遅くなる? そうなんだ。うん。ちょっと待って」


 俺と華梨の2人は黙って、電話越しに会話をしている桜場さんの様子を見ていた。すると彼女が顔からスマートフォンを離して、こちらに視線を向ける。


「2人とも、今日この後に用事ある?」

「私は無いかな」

「俺も、今日は暇だ」

「オッケー、わかった」


 確認を取ると、また電話で会話を再開した。どうやら今日すぐ相談を受けてくれる手はずを整えてくれていた。


「こっちは暇だから、大丈夫だって。うん。連れて行くよ。ちょっとだけ話を聞いてあげて。詳しい話は、帰ってから」


 会話が終わって、電話を切る。華梨のお陰で、こんなにも早く対応してくれているようだ。ありがたい。


「姉さんは大丈夫だって」

「忙しいだろうに、すまない」

「ありがとうね、美卯」

「じゃあ、行こっか」


 さあ行こうと俺たちに向かって言う桜場さん。迅速な行動だった。それに待ったをかける華梨。


「そう言えば、祐一は自転車通学だったよね。私達は電車に乗るけど、どうしょう」

「うーん。自転車は、学校に置いていくよ」


 自宅が違う方向にあって、桜場さんと華梨は電車通学。ということで、俺も今日は彼女たちと一緒に電車に乗って移動することにした。


「先に行っててくれ、俺は少し離れて行くから」

「そっか。わかった」

「えー、めんど」


 2人には先に最寄りの駅まで行ってもらって、俺は少し離れて後から向かうことにする。


 仮面を被ったままの姿で学校付近では、女子生徒と居る場面を見られたくないからだった。学校からは離れた場所で、仮面を外す。それから、2人と合流をする予定。あまり意味のない対策かもしれないが、色々と備えることは大事だと思うから。


 2人を見送る。数分待ってから、俺も校舎の中に入って教室に戻る。


「……」


 既に教室の中には誰も居なかった。荷物を取って1人、学校から歩いて出てきた。校庭を抜けると、最寄りの駅へと最短で向かう。同じ学校の制服を着ている生徒は、見当たらない。


 俺たちが話している間に生徒たちは先に帰ったのだろう。結局、同じ学校の生徒と一度も顔を合わせることなく、最寄りの駅まで来れた。


 ここまで来るのに生徒とは会わなかったし、大丈夫だろう。建物の影に隠れると、俺は被っていた仮面を外した。それから2人を探しに行く。


「おまたせ」

「おい、遅いぞ」

「すまない、遅れた」

「大丈夫だよ。全然、待ってないから」


 駅で待ってくれていた、華梨と桜場さんに合流した。真反対の反応で迎えられる。もちろん桜場さんは厳しく、華梨は優しい言葉で。


 それにしても久しぶりに電車に乗る。大丈夫だとは思うが、少しだけ不安だった。

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