第27話 間違い

「ダメかな?」

「申し訳ないけど、付き合えない」


 もう一度、ダメ押しで聞いてみると彼の口からハッキリと断られて、胸が痛んだ。断られたことで思いの外、私はショックを受けているようだった。


「華梨は、この顔が好きになったから、付き合いたいって思ってるだけだろう?」

「……」


 何も反論できなかった。その通りだったから。でも、キッカケはそうだったけれど話しているうちに好きな気持が大きくなっていった。気が合うと思えた。けれども、そんな事を今の彼に告げても言い訳にしかならないだろう。だから私は、何も言えず黙ってしまった。


「いつ、また俺の顔が元に戻るか分からない。でも、顔がブサイクに戻った時、絶対に別れることになると、俺は思う。好きになった理由が、この顔だからね」


 彼の苦しそうな表情を見て、私は事態の深刻さを今さらになって理解した。なぜ、彼は学校で仮面を被って素顔を晒そうとしないのか。元の顔に戻るだろうと思って、恐怖しているのか。今まで顔のことで、私なんかでは計り知れないような苦労をしてきたのだろう。


 素顔を知られたくない、という彼の弱みに付け込んで自分の欲望を強要していた。そんな女を好きになるような人なんて、居るわけないだろう。自分のバカさ加減を、ようやく自覚した。


 浮かれすぎていた。とんでもないイケメンと偶然、出会えたこと。自分だけが知る彼の秘密を握れたこと。そんな彼に優しくしてもらえたこと。浮かれていたなんて、そんな事は言い訳にしかならない。


「ウゥゥッッッ」


 後悔の気持ちで、胸がいっぱいになる。抑えようとするが、声が漏れてしまった。泣いてしまうなんて、また彼に迷惑をかけてしまう。それなのに祐一は、私に優しくしてくれた。


「恋人にはなれないけど、俺たちは友だちになれると思う。どうかな?」

「……うん。私も、仲良くしたい」


 何とか返事をする。今は彼の好意に甘える。下手に答えて祐一を困らせたくない。だけど、自分のしたことを絶対に忘れないようにしないと。


「この顔の秘密を誰にも話さないように、俺は華梨を見張っておく。その間だけは、仲良くしよう」

「……わかった」


 こんな私なんかと仲良くしよう、と言ってくれる。そんな優しさが、私に罪悪感を抱かせた。だけど悪いのは自分だ。この気持を、彼には知られないように隠す。




 彼と別れた後、私は必死で考えた。


 どうにかして償わなければならない。彼のために、私はなにか出来ないだろうか。彼の苦しみを、少しでも和らげる方法。それを見つけ出さないと、私は一生後悔することになるだろう。

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