第26話 美味しい気持ちを共有

「はい」

「ありがとう」


 ベンチに座ると、息の合ったベストなタイミングで、私にバナナジュースを渡してくれた。祐一は、すぐ隣に座った。横に並んでバナナジュースを飲む。


 飲んでみると、確かに美味しいと感じた。流石、レビューサイトで高評価の点数をつけられているだけのことはある。好評なのも納得がいく美味さだった。飲みに来て良かったと思えた。


 祐一は、どうだろうか。美味しいと思ったのかな。感想が気になって横に座る彼を見てみると、少し微笑んだような表情でバナナジュースを飲んでいた。


 飲んでみて味は美味しかったのか、本人に感想を聞いてみる。


「どう?」

「ん。美味しいな」


 良かった。祐一も、味は少し違うが同じ飲み物を飲んで、美味しいと感じてくれたようだ。それが、とても嬉しかった。


「そっちは、どう?」

「うん。美味しいよ」


 感想を聞かれて私も同じように、美味しいと答える。美味しい飲み物を共有できて嬉しかった。


 もう一度、飲もうとした瞬間。彼がジーッと私の持っているカップを見つめていることに気付いた。もしかして、私の持っているチョコのやつも飲んでみたいのかな。


「ちょっと、飲んでみる?」

「うぇっ!?」


 ストローを差し出しながら言ってみると、彼はものすごく驚いていた。


 祐一に、飲んでもいいよ、と許可を出す。彼は、そーっと顔を近づけてストローをくわえて吸うと、チョコのバナナジュースを飲んだ。


 間接キスになるだろうけれど、不快感はなかった。それより、こっちも飲んでみて美味しいと感じて欲しい、嬉しいと思う気持ちをシェアしたかった。


「どう? 美味しい?」

「あぁ、うん。チョコのやつも美味いな」

「良かった」


 私はすぐ、彼に感想を求めた。祐一は、美味しいと答えてくれたので私も嬉しい。一気に距離が縮まったような気がした。



 最後までじっくりと堪能しながら、祐一に奢ってもらったチョコのバナナジュースを飲み干す。空になったカップを見つめて、この後どうしようかを考えていた。


 告白すれば、今なら受け入れてもらえるのではないか。祐一に彼女が居ない事は、聞き出して知った。だが、グズグズしていると誰かに先を越されるかもしれない。


 短い間だけど、おしゃべりをして良い雰囲気だったと思う。恋人になってからも、楽しい会話が出来そうだ。


「ねぇ」

「ん? どうした」


 隣りに座っている祐一の顔を見ながら呼びかけると、彼は応えた。視線を合わせてくれて、私が話し出すのを待ってくれている。


「祐一は彼女、居ないんだよね」

「居ない」


 念の為に、もう一度確認してみる。彼女は居ないらしい。ならば、今のうちに私が告白して恋人になりたいと伝える。覚悟を決めて、その言葉を口に出した。


「じゃ、じゃあさ。私と付き合うとか、どう?」

「……」


 私の発した言葉を聞いた瞬間、彼は眉間にしわをよせて渋い表情を浮かべていた。そして黙ったまま、イエスかノーか、どちらの答えも口に出そうとはしない。


 ただ、彼の表情は物語っていた。私の告白は断られる、ということを。

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