第28話 やりにくいアルバイト

 この前のデートは楽しかった。けど、色々と大変だった。本来の目的は素顔を見た彼女の口止めだったが、気が付くと楽しく会話をしていた。最後は彼女からの告白を断って泣かれてしまったが、仕方ない。あの判断は、今でも間違いないと思っているから後悔はなかった。


 ただ、あの出来事があってからより一層、人との付き合い方については考えるようになった。基本的には、なるべく関わりを持つのは止めておこうと思った。顔が元に戻った時にすぐ、関係を切って精算できるようにしておくことが大事だと。


 学校の外では仮面を外して素顔で行動しているので、この超美形の顔で得することが多い。不愉快な視線を向けられること無いし、周りに過剰なほどの気を遣う必要も無い。アルバイトにすぐ採用されたのも、この顔のお陰だろうな。


 街を歩いていると、逆ナンされることもあった。女性から声をかけられて、断って行こうとすると連絡先を無理やり渡されたりした。もちろん、見知らぬ人に渡された番号に連絡なんてしないで、厳重に処分する。


 人との繋がりは極力、少なくしておきたいから。


 アルバイト先でも関わりを持とうとする人たちが群がってくるけれど、邪険にすることは出来ない。一緒に働く同僚だから。なるべく当たり障りのない人付き合いで、やり過ごしていた。


 それでも、積極的に絡んでこようとする女性が居た。初日に、面接の後に出会った中本さゆりである。


「おはようございます!」

「ッ!? あ、あぁ。おはようございます、中本さん」


 アルバイトのシフトが入っている少し前の時間に、俺は仕事場に到着した。そこに中本さんも居て、元気よく挨拶される。無視するわけにはいかないので、俺も挨拶を返す。


「もう、ホールでの仕事には慣れた?」

「まだ慣れていませんが、仕事は出来るようになったと思います」

「それは良かった。分からないことがあれば、私に聞いてね。教えるから」

「大丈夫です。知識は身につけたので、後はちゃんと実践できるかどうか、なんで」

「なるほど! じゃあ、今日も頑張ってね。困ったことがあれば、いつでも」

「ありがとうございます。準備しないといけないので、それじゃ」

「あ、はい」


 先日、採用されたファミレスで俺は、ホールスタッフとして働いていた。


 お客様を席へ案内、注文のオーダーを取り、料理の提供をする。後は、食器の引き下げ、レジの精算処理などがホールスタッフの主な仕事である。


 本当は、キッチンスタッフとして働こうかと考えて応募した。採用されたてから、キッチンスタッフとして働きたいと希望の職種を話したけれど、店長から却下されてしまった。そして、ホールスタッフとして働くようにと指示されてしまう。


 店長に指示されたのなら、仕方ない。仕事なので従うことにする。接客は、今まで経験が少ないから、これから色々と覚えないといけない。研修期間中、中本さゆりがマンツーマンでトレーニングしてくれるらしいから分からないことがあれば、彼女に聞くようにと言われている。


 生活費を稼ぐためにも頑張って、短期間でホールの仕事について覚えた。

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