第23話 交換条件のデート

 授業が終わって放課後になると私は、女友達と別れて1人になった。ちょっとだけ急ぎ足で、コンビニにやって来た。


 これからデートの約束があった。約束をした相手は、まだ来ていないようなので、到着するのを待つことにする。


 しばらくボーッと立って待っていると、見慣れた制服を着ている仮面を被った男が自転車に乗って現れた。


「おっそい!」

「いや、すぐに来たけど」


 かなり待たされたような気がしたが、そんな事は無かったみたい。どうやら私は、とてもワクワクしているようだ。テンションが上っている。


 そして中井は、仮面を被っていた。もう外しちゃっても良いと思うんだけれども、本人は頑なに外そうとしない。学校にいる間は仮面をずっと装着したままで、素顔を晒そうとしなかった。今も、仮面を被ったまま。ここまで来るのにも、仮面を外さず自転車に乗ってきたそうだ。


 本当に勿体ないと思う。彼には自信を持ってもらって、そのままの素顔で過ごして欲しい。いつか、元の顔に戻ると中井は信じているようだ。そもそも、彼が今の顔になった原因が分からないというのに、元に戻ったときに備えて仮面まで被っている。なぜ、そんなにもネガティブに考えるのだろうか。今のままで、彼が言うブサイクな顔には戻らないと思うが。


 だから私は、どうにかして彼に仮面を外させる方法を考える。ついでに、デートを楽しむ。今日の目標だった。


 早速、私は中井に仮面を外して素顔になってもらった。渋々、仮面を外した中井。もう一度見ても、とてもカッコよくて美しい顔。


「それで、これからどこに行くんだ?」

「えっ!? ……えーっとね」


 中井にデートの行き先を聞かれ、私は答えに詰まる。しまった、考えてなかった。どうしようかな。ここから急いで行ける、楽しめそうな場所を考える。中井も一緒に楽しめる何か、あるだろうか。




 学校帰りの放課後だから、すぐに外は暗くなってしまう。あっという間に、夜遅くなってしまう。


 時間は限られているので、映画を見に行くには時間が足りない。ショッピングは、男の人が一緒に楽しむのは難しいだろうな。これから食事に行くとなると、良さそうなお店が思いつかない。簡単に飲み食い出来て、短めで楽しめるようなお店はどこかあるだろうか。色々と考えて私が選んだのは、バナナジュースのお店だった。


「じゃあ、あそこに行こう!」

「行き先、決まったのか?」

「うん。バナナジュース屋さん」


 私が行き先を提案すると、中井は苦笑しながら応じてくれた。デートの約束をしてくれた時も思ったけれど、彼は優しいな。私なんかのワガママを聞いてくれる。このデートも、交換条件と言って私が甘えて、デートしてくれることになった。


 少しだけ罪悪感を抱きながら、私は彼と並んで歩く。目的地まで、20分間ぐらい歩くそうなので、歩いている間は沢山おしゃべり出来そうだ。


 自転車に乗ってきた中井に、二人乗りをさせてと言ってみたがダメだと言われた。けれど私のカバンを自然に持ってくれたので、やっぱり彼は優しい人だと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る