第24話 楽しい会話

 中井が横で自転車を押して歩いている。彼と一緒に私も歩きながら会話する。気になったのは彼の話し方。教室でよく見る時の彼は、友達に対して媚びへつらうような感じがあった。私が見た場面が偶然、そんな時だっただけなのかもしれないが。


 けれど今は、堂々としている。その口調が似合っていた。こっちの方が、彼本来の喋り方ということなのかな。本人に聞くと、学校にいる時の喋り方はクラスメートに気を遣っている、ということらしい。私は、こちらの喋り方の方が好きだと思った。


 楽しく会話できている。この雰囲気なら聞けそうだと思って、いきなり私は聞いてみることにした。中井に、彼女が居るのかどうか。


「ねぇねぇ」

「なんだ?」

「中井は、彼女とかって居るの?」

「急な質問だな」


 しまった。ちょっと気が早かったのかもしれない。面倒そうな表情を浮かべると、彼は答えてくれずに口を閉じてしまった。だけど、ここで引いたら答えは聞けない。もう質問をしてしまったから、もう少し突っ込んで聞いてみよう。


「いいじゃん、教えて。ちなみに私は、彼氏は居ないかな」

「聞いてないが。俺も彼女は居ない。当然だろう?」


 自分も彼氏が居ないということを明かすと、中井は教えてくれた。そして、彼女が居ないという事実を知って嬉しくなる。そっか、今は彼女が居ないのか。でも、選り好みせずに、その顔で女の子を口説けばすぐに彼女なんて出来そうだ。気が付けば、いつの間にか彼女が出来ていた、なんてことになるかも。安心はできない。もっと、彼のことを知っておきたい。色々と会話をする。


 中井がアルバイトをしていることを初めて知った。学校の成績が優秀だったから、勉強ばかり熱心にやっていると思っていたが、アルバイトもしているのか。驚きだ。


 それから他にも他愛もない話をしているうちに、名前の呼び方が気になってきた。私のことを皆瀬と、彼は呼んでいる。下の名前で呼んで欲しいと思った。だから私は提案した。


「ところでさ。私のこと華梨、って下の名前で呼んでくれない?」

「え?」

「私も、中井のこと下の名前で……えーっと、中井の下の名前なんだっけ?」

「うぉい。知らないのかよ」


 言ってから、マズイと思った。まだまだ彼のことを知らない。下の名前を知らないなんて、気を悪くさせてしまったかも。しかし彼は、楽しそうに笑ってくれた。


 ホッとした。そして、彼の下の名前が祐一であることも教えてもらった。ちゃんと忘れないように記憶しておく。


 もうそろそろ店に到着するようだ。会話していると、あっという間に時間が経っていた。私は、とても楽しい時間を過ごせた。私と祐一の相性は、とても良さそうだと思った。

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