第17話 中井の評価

 私は、腕を引かれて校舎の裏に連れてこられた。周りには人が居ないような場所。空気が、ひんやりとしている。これから何をされるのか。


 しばらく待ったが、じっと見つめてくるだけ。仮面を被った中井らしき人物と目を合わせる。仮面の目がある部分に穴が空いていて、奥からジッと視線を向けてくる。とても怖く感じるが、私は強がって反抗していた。


「な、なによ!」

「見たのか?」


 彼は、大きな声で問いかけてきた。一瞬、何のことを言っているのか理解できず、答えに詰まる。責めるような大声に圧されて、言葉が出てこない。


 それから彼は何度も、しつこく聞いてくる。仮面の下に隠した素顔を見かどうか、について。私がとぼけると、彼は仮面をズラして口元だけ見せてくれた。キレイな顎のラインと、セクシーな唇。先程、キスされると思って覚悟した魅力的な口元がまた見れた。


 顔を見たことについて正直に白状する。しらばっくれても無駄だと分かったから。仮面の彼が中井である、ということも確信した。聞き覚えのある声で、明らかに中井の声だったから。聞き間違いではないと思う。


 でも何故、彼は急にイケメンになったのだろうか。前まで、そんな顔じゃなかったはずだ。彼の友達たちが、ブサイクイジリしていたのを聞いた覚えもある。


 どうしてそうなったのか説明を求めると、中井は詳しく教えてくれた。ある日の朝、目が覚めたら超美形になっていたらしい。なんて羨ましいんだ。私も、起きたら美人な顔になっていたら嬉しいのに。


 それなのに、中井はあまり嬉しそうじゃない。なんでだろう、と問いかけると彼は元に戻った時の事を考えて怖がっていた。


 彼の話を聞いて、そんなにネガティブに考えなくても良いのに、と思う。せっかくイケメンな顔に変わったんだから、十分に堪能すればいいのに。そう言っても、彼は納得しなかった。


 とにかく、元の顔に戻った時の事を考えているらしい。色々と大変そうだ。


 元の顔に戻った時のために、仮面の下にある素顔は隠しておきたい。だから私が、他の誰かにいいふらさないように、とお願いされた。


 タダで彼の言うことを聞くつもりは、一切無かった。交換条件として、何か要求をしよう。どんな要求にしようかなと、考える。


 良いことを思いつた。まず彼に、被っている仮面を取ってもらう。


「どうだ?」

「……」


 そう言って渋々、被っていた仮面を外してくれる中井。やはり彼は、めちゃくちゃイケメンになっていた。見間違いではない。じっくり見ても、見惚れてしまうぐらい美しい。


 中井は意外と背が高くて、運動神経も良い。テストでは毎回のように成績上位で、勉強ができて頭も良い。友達との付き合いも悪くない。そう考えると、彼氏としてはものすごく優秀で女友達に自慢できる。唯一の欠点といえば、顔の悪さだった。


 その顔も、どういう事かイケメンになっていた。彼の悪い部分が全て消え去って、付き合いたい男子生徒ランキングで一位に輝くだろう。


 まだ、この事実を知っているのは私だけなのか。ならば周りにバレる前にいち早く彼と、お近づきになっておきたい。そう考えた私は早速、彼とデートしたいと要求を伝える。すぐに行動して、親しくなっておきたいと考えて。


 お金目的で、私がデートを提案したと勘違いされた。やっぱり、そんな風に見えるのかな。否定すると、すごく申し訳無さそうにして謝ってくれたので、すぐ許した。


「今日の放課後だな。仮面を外した顔で、デートする。分かった」

「やったぁ! じゃあ、放課後にね」


 そして中井は、黙ってくれるのならデートをすると約束してくれた。放課後、このイケメンとデートをする。急に実感が湧き、ものすごく嬉しくなってきた。そして、デートの様子を妄想して恥ずかしくなった。彼に今の私の顔を見られたくなくって、急いでその場から走り去った。今日の放課後が、楽しみになった。

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