第16話 見知らぬイケメン
「キャッ!」
「っと!?」
せっかく早めに化学実験室へ移動したのに、教科書を持ってくることを忘れていた私は、急いで教室へ取りに戻っていた。廊下を曲がろうとした瞬間、前方から大きな衝撃を受けて転んでしまった。
「すまん、怪我はないか」
頭上から聞き覚えのある声。この声は、中井だな。教室で流川たちとふざけている時によく聞いていた。ぶつかった相手が分かった瞬間に、私は怒鳴りつけてやろうと口を開きながら顔を上げた。
「もう! 中井ッ! そんなところに突っ立って、ない、で、……え?」
目に入ってきた光景に、私は混乱した。あれ、立っているのは中井だったはずだ。なのに私の視界には、ものすごいイケメンが立っている。一体、誰だ。しかし、ものすごいイケメンだ。流川なんて目じゃないぐらい。この学校に、こんなすごい人物が居たのか。私は知らない。うちの学校の制服を着ている、ということは生徒のはず。最近、この学校に転校してきた生徒かな。でも、何も噂になっていない。こんな顔の持ち主が転校してきていたら、一瞬で噂になるはず。知らないわけがない。じゃあ、どいうことなの。
混乱しながら、思考が一気に加速する。しかし、答えは出なかった。
すると謎の人物が屈んで、私の目の前まで接近してきた。美しい顔が目と鼻の先にまで近付いている。もしかしたら、キスされるのかもしれない。謎の思考が働いて、私は覚悟を決めた。
「ッ!?」
だが彼は、すぐに身体を離した。何をしたのか。手に仮面を持っている。見覚えのあるソレを彼は顔に装着した。あぁ、キレイな顔が見えなくなってしまった。
彼の素顔が隠れてしまい残念に思っていると、次は腕を掴まれていた。肌が触れた瞬間、身体が硬直する。
「ちょっと、来てくれ」
「え? えっ!?」
それでも無理やり引っ張られて、倒れていた地面の上から強引に立たされた。で、腕を引かれてどこかに連れ去られる。
私は、どこに連れて行かれるのか。さっきのイケメンは誰なのか。彼の被っている仮面に見覚えがある。どこで見たのか。
……そうだ、思い出した。あれは中井が最近、ずっと被っている仮面じゃないか。妙に印象的な、少し不気味な仮面。あんなのを気に入って、ずっと被っている中井に呆れながら、ちょっと心配していた。
いやでも、仮面の下はイケメンだった。1週間ぐらい前は、そんな顔じゃなかった気がするが。でも聞こえてきた声は、中井だった。あれ、一体どういうことだ。
腕を引かれながら、私は謎の人物について考え続けていた。中井なのか、それとも別の誰かなのか。
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