第15話 交換条件
「じゃあ、黙っててあげる代わりに2個、私のお願い聞いて」
「2個もか。多くないか」
「もう、ケチケチしないで。そんなに難しいお願いじゃないからさッ!」
コチラが、仮面の下について黙っていて欲しいという要求を受け入れる代わりに、皆瀬が何か条件を出すそうだ。しかも2個も。彼女の楽しそうな笑顔を見ていると、不安になる。まぁ、聞くだけは聞いてみよう。皆瀬の要求を受け入れるかどうかは、こちらの判断次第である。
「まず、1個目のお願いは仮面を外して見せて?」
「え?」
「もう一度、中井の素顔を見せてよ」
この被っている仮面を外して、素顔をもう一度晒せ、ということか。もう彼女には見られているし、仕方ないか。
「わかったよ。どうだ?」
「……」
彼女の要求に従って仮面を外し、素顔を晒す。身長が俺よりも低い皆瀬は、下から見上げるように俺の顔をジーッと見つめてきた。こちらも、彼女の顔を見返す。
皆瀬ってよく見てみると、意外と幼い顔をしている。クラスメートで以前から顔は知っていたが、彼女との関わりは少なく詳しくは知らなかった。こんなにも間近で、彼女の顔を見ることもなかったし。
しかし、いつまで見つめ合うつもりなのか。止めないと、ずっと見つめ合うことになりそうだ。
「もう、いいか?」
「あのさぁ……」
「ん?」
「やっぱり、その顔は隠しておくの勿体ないよ」
ものすごく真剣な表情で、そう言う皆瀬。俺に、アドバイスしてくれているのか。しかし、そう言われても元に戻った時の事を考えると仮面は外せない。だから俺は、持っていた仮面を被って顔を隠す。
「無理だよ」
「そっかぁ、勿体ない……」
心の底からそう思っいてるのか、皆瀬は気持ちのこもった一言を呟く。そんなに、勿体ないかな。勿体ないよな。ここ数日で、この超美形の恩恵は感じていた。ただ、それに甘えると、ドツボにはまりそうだから自制している。
「それで、もう一つの要求は何だ?」
「う、うん。え、えっとね……」
「何だ? どうした」
「あー、えっと……」
もう一つの要求について聞くと、急にモジモジし始めた彼女。一体、どんな要求をしてくるつもりなのか。彼女の言葉を待っていると、口を開いた。
「そ、そのぉ。素顔でデートしてほしいな、って」
「で、でーとぉ?」
「うん、デート」
「いつ?」
「今日の放課後」
「きゅ、きゅうだな……」
予想外の要求だった。金銭とか、奪い取られるんじゃないかと心配したが。いや、そのデートで支払いをする財布として使われるのかも。
「金は無いぞ」
「え!? あ、い、いや、違くて。普通にデートして欲しいな、って」
「そ、そうなのか。それは、すまん」
流石に、疑いすぎたか。皆瀬に悲しそうな反応をされて、申し訳なくなる。いや、でも俺なんかとデートに行きたいなんて。やはり、顔なのかな……。
「で、どうするの? 私と、デートしてくれる?」
「あ、あぁ」
「ホントに!?」
「わかった。今日の放課後だな。仮面を外した顔で、デートする。分かった」
「やったぁ! じゃあ、放課後にね」
喜びながら、校舎の裏から走り去っていった皆瀬。それを呆然と見送るだけの俺。本当に、彼女は今回のことを黙っていてくれるのか。少しだけ心配だった。しかし、デートか。緊張するな。
急に決まった放課後の予定。都合よく、今日はアルバイトのシフトが入ってない。皆瀬とのデートどうなるのか、かなり心配だ。だけど、少しだけ楽しみでもあった。
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