第14話 口封じ

「ッ!?」


 急いで地面に落ちていた仮面を拾って、顔に被る。素顔は隠したけれど、目の前に目撃者が居た。尻餅をついたまま、驚いた表情で見てくる彼女をどうするか。


「ちょっと、来てくれ」

「え? えっ!?」


 地面に倒れていた彼女の手を掴む。腕を引っ張って立ち上がらせると、人が居ない場所を探して、彼女を強引にひっぱり連れて行く。


 幸いにも、廊下では誰ともすれ違うことは無かった。校舎の裏まで来ると、周囲に人が居ないことを確認する。左右には誰も居なくて、正面には皆瀬だけ立っている。茶色のセミロング、制服を少し着崩したギャルっぽい見た目。クラスの中での立場が上位の彼女。そんな人物に、俺が隠していた素顔を目撃されてしまった。


 クラスメートたちに言いふらされると困る。ここで口止めしないと、マズイことになるだろう。ジッと彼女の顔を見て、目線を合わせる。


「な、なによ!」

「見たのか?」


 問いかけると、彼女の身体がビクッと動く。逃げないように掴んでいた手からも、彼女の動きを感じた。


「見たのかを聞いてる。答えてくれ」

「は、ハァ? だから、一体何を」

「これを」

「ッ!?」


 ちょっとだけ仮面をズラして、口元を一部だけ見えるようにする。素顔を見られているのは明らかだが、彼女の口から見たかどうかを答えさせた。


「み、見たわよ。な、中井ってそんな顔してたっけ?」

「少し前から、こうなった」


 どうやって、口止めするのか考えるが良いアイデアは思いつかない。仕方ないので正面からストレートに、お願いする。


「黙っててくれ」

「え?」

「この顔のことについては、誰にも言わないでくれ」

「なんで? めちゃくちゃイケメンじゃん」


 俺は、この素顔をクラスメートたちに晒すことによって考えられる問題について、彼女に説明した。


「なるほど、最近ずっと仮面を被ってたのはそういう事なのね」


 俺の説明を聞き終えると、彼女は色々と納得して楽しそうに笑顔を浮かべていた。いい気なものだ。


「でも、考えすぎだと思うけど」

「いいや、この顔はいつ元に戻るか分からないから。戻るまでは、仮面を外せない」

「ふーん、そっか。大変なんだね」


 彼女にとっては他人事だから、そんなにも能天気な感じで答えられるのだろうな。気楽な皆瀬が羨ましいよ。


「とにかく、俺の素顔については誰にも言わないって約束してくれ」

「うーん、そうだなぁ……」


 余裕を取り戻してきたらしい皆瀬は、口元に人差し指を当てて、何かを悩んでいるという仕草をする。彼女は、どう答えるつもりなのか。

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