第13話 油断
仮面を被って学校に通うことに慣れてきた。生徒たちや先生も、普通に受け入れるようになって、俺は仮面を被ったまま授業を受けられるようになった。
最初は、「なんで仮面を被ってるの?」と何回か質問されたが流川の名前を出して質問から逃れていた。疑問に思って尋ねてくる人達を無理やり納得させる言葉。
この仮面は、流川君にプレゼントされて気に入っているモノなんだ。
顔は元に戻らず、超美形のままである。戻りそうな気配も無かった。ブサイク顔が今の顔に変化した時も、予兆はなかった。なので元に戻れるのかどうかについては、全く予想がつかない。
とはいえ、あの時も朝起きた時にいきなりこうなっていた。この顔も、ある日急に元のブサイク顔に戻るかもしれない。
とりあえず今のまま、素顔を隠すために仮面を被って学校に通い、授業を受ける。
学校の外では、仮面を外して過ごしていた。アルバイトとか、買い物するときには外さないと不都合があるから。
先週、アルバイト先でファミレス研修を受けた。今週から、ホールスタッフとして働き始める。本当は調理場で洗い物や、食品の仕込みなど裏方の雑用をしたかった。だが、店長に命じられてホールに出されることに。上から指示されたので仕方なく、お客さんと接する。
顔が変わってから色々と大変だったが時間が経って、ようやく普通の生活に戻ってこれた。
学生生活は順調だし、新しいアルバイト先にも慣れてきた。家での生活も充実して平穏に過ごせている。全て順調に事が進んでいた。それが、油断に繋がったらしい。
化学の授業を受けるために、化学実験室へ移動しないといけない。教室を出て俺は1人、通路を歩いて目的地に向かっていた。その時、角から生徒が飛び出してきた。
「キャッ!」
「っと!?」
避けきれずに、ぶつかる。身体が当たった相手は女性だったらしい。当たり負けた女性が地面に倒れる。ヤバイ、怪我をせさてしまうと最悪だ。
「すまん、怪我はないか」
「もう! 中井ッ! そんなところに突っ立って、ない、で、……え?」
慌てて、どこか痛めていないか問いかける。相手は俺のことを知っていた。クラスメートの女子だ。名前は確か
彼女は尻餅をついたまま顔を上げて、俺を睨みつけて文句を言ってきた。しかし、彼女の言葉が途中で弱々しくなり、尻すぼみになる。どうしたのか。
「ん?」
彼女の視線は、仮面を被っている箇所に向いていた。と思ったが、俺の視界は妙にクリアだった。これは。
「あ」
「……」
倒れている彼女の手元に、俺が被っていた仮面が転がっている。つまり今の俺は、素顔を晒しているということなのか。黙ったまま俺の顔から視線を外さない、皆瀬。マズイ、かもしれない。
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