第12話 今日は疲れた

「ただいまー」


 買い物袋を引っさげて自宅に帰ってきた。誰も居ない部屋に向かって、ただいまと入っていく。


 制服から部屋着に着替えると、すぐに夕食のカレー作りを開始する。野菜を切り、煮るだけ。ぼーっとしていても出来るぐらいに簡単だ。部屋の中に、カレーの匂いが漂ってきたので、空腹が刺激される。


 炊いておいたご飯の上にカレーをかける。それで完成。


「いただきます」


 テーブルの上にカレーと福神漬を置いて、飲み物は冷やした水を。手を合わせて、食事の儀礼をしてから食べ始める。




「ごちそうさま」


 さっくりと食べ終わる。食事中はテレビなど見ないので、ものすごく静かな空間が続く。今日のカレーは、ちょっと辛めだったかな。少し汗をかいた。


 食事の後、すぐに食器を洗って後片付けを済ませる。


 時刻は、まだ8時。その日の授業で習った内容を復習しながら、次の授業に備えて予習もしておく。俺は特待生制度を利用して、学費の一部を免除してもらっている。だから、日頃の成績を高く維持してかないとマズイ。試験でも成績上位にならないと資格を失ってしまうので、普段から勉強しておかないといけなかった。


 勉強はあまり好きではない。でも、仕方なく頑張ってやっている。予習復習をしている最中にやる気が落ちた時は、筋トレをして気分を変える。そうやって、なんとか毎日頑張っていた。


 勉強が終わればシャワーを浴びて汗を流す。湯船には浸からず、素早くさっぱりとする。


「やっぱり、変わってないか」


 シャワーを終えて、濡れた髪の毛を拭いている最中。改めて鏡を確認してみるが、今朝も見た顔が映っている。変わらないまま。このまま元に戻らない、という可能性もあるのかもしれない。


 後はもう寝るだけ。ベッドの上で、短時間だけ読書をする。そうしているうちに、眠たくなってくるから。


 電気を消して、眠れる状態。色々と、その日にあった出来事を思い返してしまう。いきなり、ブサイクだった顔が超美形に変わった、ということ。


 この顔は、いつ元に戻るのだろうか。それとも、もう二度と戻らないのだろうか。こうなった原因が何も分からないので、次またいつ起きるのか予想もつかない。


 困るのは、この顔のままで良い、元に戻らないほうが良い、と思ってしまうこと。この顔を受け入れた瞬間に、またあのブサイク顔に戻ってしまうと精神的ショックが大きすぎるだろうから。


 出来ることなら、早くあのブサイクな顔に戻ってきて欲しい。そうしないと俺は、今の顔を受け入れてしまいそうだ。今日一日だけで、なんて平穏な生活を送れたか。


 アルバイトはすぐ決まるし、周りからネガティブな視線を向けられない。そして、女性が向こうから話しかけてきてくれる。こんな幸せなことはない。


 どうか、夢であってくれ。もしくは、もう二度とブサイクな顔には戻りたくない。ダメだ、本心ではもう元の顔には戻りたくないと思ってしまっている。


「寝よう」


 寝て、起きたら元に戻っていることを願って。これは悪い夢だったんだ。布団を、頭から被って俺は目を閉じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る