第11話 地元スーパーの異変

 制服姿の若者がスーパーに入店した瞬間、店内の雰囲気がガラッと変わっていた。彼に、周りの視線が集中していた。見られている本人は、何も気にしていない感じで店内を巡っている。だが、周りの主婦たちはチラチラと若者に視線を向けていた。


「ものすごいイケメンね」

「モデルさんか、俳優さんかしら?」

「いえ、見たことないわよ。あの顔だったら、絶対に話題になってるでしょ」

「この辺りに住んでいる子かしらね」

「地元では見たことないわよね。見ていたら、絶対に覚えているだろうし」

「最近、引っ越してきたんじゃない?」

「あの制服は、あの高校でしょ?」


 小声でヒソヒソと、若者について話をしている主婦たち。


 どんな商品をカゴに入れるだろうか。野菜や肉など食材を見ているということは、料理をするのかな。彼の手料理を食べてみたい。一挙手一投足を注目されていた。


 母娘が一緒に、その若者を見つめている。母親だけでなく、小さな女の子までもが見惚れるほどの美形だった。


 商品が並んでいる通路を若者が歩くたびに、周りの視線を奪っていく。視線を向けられている若者は、さっさと商品をカゴにの中に入れ、慣れた感じでレジに並んだ。




「?」


 先にレジに並んでいた女性は、自分の後ろに周りにいる人たちの視線が向けられているのに気が付いた。何か、あったのだろうか。気になって様子を見るために、後ろを振り返る。


「ッ!?」


 漏れそうになった声をなんとか抑えて、前を向いた。ものすごく美形の男の子が、後ろに並んでいた。もう一度、チラッと見てみる。見間違いじゃない。


 テレビや映画で見るようなイケメン俳優よりも優れたイケメンが、真後ろにいる。意識しすぎて、背中の感覚がおかしくなった女性客。何度も見たくなる顔に、思わずチラチラと後ろを見ようと何度も振り返ってしまう。


 残念ながらレジが自分の番になったので、レジ台にカゴを置いて、素早く支払いを済ませた。後ろに並んでいる若者を待たせないために、いつもよりも早く機敏な動きで支払いを済ませて、自分の買った商品が入っているカゴを運び出す。




 夕方の忙しい時間。この時間帯のレジ作業が終われば、今日の仕事の大半が終わりとなる。気合を入れて、レジ打ちをするおばちゃん。


 見慣れた制服姿の客が来た。いつもの、あのブサイク顔の常連客だろう。さっさとレジを打って終わらせようとしたが、何だかいつもと雰囲気が違う。どうしたんだと常連客の顔を見てみると、思っていた人とは別の人物が立っていた。


「あら」


 ものすごくイケメンの男の子だった。思わずおばちゃんは、彼に話しかけていた。すると彼は、会話に応じてくれた。こんなにイイ男と会話することが出来て、とても嬉しくなったおばちゃん。いつもよりも丁寧にレジ打ちをして、彼を見送る。


 名残惜しいが仕事中なので、次の客のレジ打ち作業に戻る。今日は良い日だなと、思ったおばちゃんだった。

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