第10話 スーパーで買い物
明日からアルバイト先となったファミレスから自転車に乗って移動し、家の近くにあるスーパーまでやって来た。主婦や小さな子供たち家族で賑わっている店内に入りカゴを持つ。
「今日は、何を作ろうかな」
家の冷蔵庫に入れていた食材を思い出しつつ、野菜と肉のコーナーを歩く。今日は疲れたから、簡単に作れるカレーにしようかな。切って煮込んで、市販のカレールーを入れるだけで出来てしまうお手軽料理。
「にんじん、じゃがいもは残ってたはずだから……」
後は、玉ねぎや大根なんかも残ってたはずだから野菜は大丈夫。お肉とルーだけ、買えば良いだろう。商品をカゴに入れて、他に必要なものはないかを思い出しながらレジに向かう。買い忘れは無いだろう。
カバンから財布を取り出して、並んだ。
「あ」
「ん?」
レジの順番を待っていた俺の前に並んでいる女性と、目が合った。そして彼女が、何度もチラチラと後ろを振り返る。
俺は何か、してしまっただろうか。一瞬、不安になったが顔を見られていることに気が付いて納得する。そう言えば、今の俺は素顔を晒したままだった。
流石にスーパーの中まで、仮面を被ったまま入ることは出来ない。下手をしたら、強盗と間違われて警察を呼ばれるかもしれないから。
辺りを見渡すと、他の女性たちにもチラチラと見てくるのを感じた。今まで露骨に視線を外されたり、不快な顔をされることが多かったから新鮮な反応である。レジの待ち時間が、とても長く感じた。早く買い物を済ませて、家に帰りたいよ。
「……」
顔を見られているが、俺は特に反応せず空中を凝視して順番を待った。ようやく、レジの順番が回ってきたのでレジ台の上にカゴを置く。
「あらー、今日はカレー?」
「え? あ、はい。カレーです」
レジのおばちゃんに、親しげに話しかけられた。1年以上も利用をしてきたのに、初めて話しかけられたので驚いた。
今日だけで俺は、どれだけの初めてを経験するんだか。そして顔がいつもと違っているだけで、周りの反応がこんなにも変わるとは思わなかった。
「お野菜は? お肉だけじゃなくて、ちゃんと栄養のあるものを摂らないと」
「野菜は冷蔵庫とかに残ってるんで、大丈夫です」
「そうなの。それにしても、自分で料理してるなんて偉いわねぇ」
「どうも」
いつもは不機嫌そうにレジを打っているおばちゃんが、今日はご機嫌でレジを打ちながら、会話までしてくる。しかも、ちょっとお節介な事まで言ってくるし。
「ありがとう、また来てね」
「はぁ……。どうも」
支払いを済ませてカゴを受け取る。さっさと行こうとすると、最後まで話しかけてきたレジのおばちゃん。一度も聞いたことのない言葉だった。
おばちゃんに言われたことで逆に、いつものスーパーの利用を遠慮したくなった。早く家に帰ろう。今日は、本当に疲れた。飯を食って、今すぐに寝たいな。
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