第9話 王子様との出会い
私の名前は中本さゆり。ファミレスで働いている、21歳の大学生です。趣味は、アイドルのライブDVD鑑賞だ。
アイドルは大好きだけど、それほど熱中しているわけでもなく、ライトなファンである。シングルCDは好きなカップリングのを買って、アルバムは初回限定盤とか、特典が気になったモノを買ったりするだけ。他はレンタルショップで借りて済ませている。
ライブは現地には見に行かず、ライブDVDを買って好きな時に家で見る。まだ、一度も生のライブを見に行ったことは無かった。そんなのでファンを名乗って良いのだろうか、コアなファンからは嫌われそうな程度のアイドル好きである。
身近にいる男性との付き合いは、薄かった。通っている大学には、陽キャな性格の男子学生しかいないからノリが合わない。仕事先のファミレスにも、中年のおじさんしか居ないから恋愛する相手ではない。だから、アイドルに軽くハマっている。
そんなんじゃ一生、彼氏を作ることも、結婚することも出来そうにない。だけど、私はそれほど焦っていない。今の生活を楽しんでいた。彼氏は欲しいけれど。
今日も、ファミレスのホールスタッフとして働いている。
「お待たせいたしました、ハンバーグのランチセットです。ご注文の品は揃いましたでしょうか?」
テーブルの上に注文された品をゆっくりと置き、両手を添えて提供する。お客様の反応を伺いながら、オーダーの料理を出し終えた事を確認する。
「ごゆっくりどうぞ。失礼します」
会釈して、テーブルから離れる。これが終わったら、30分の休憩に入って良いと言われていた。ようやく休める。そう思って休憩室に向かうと、スタッフルームから学生服姿の男性が出てきた。見覚えのない、背が高くて若そうな人。
「っ!?」
彼の顔が見えた瞬間、私は息を呑んだ。あまりにも美しい顔。アイドルでも相手にならないような美しさである。その美しさは、まるで王子様。
まさか現実で、アルバイト先という身近な場所で、王子様を思わせるような風貌の男性と出会えるとは。
彼は、裏口のドアから帰ろうとしていた。どうしようか。話しかけるべきなのか。迷惑になるかもしれない。一瞬、葛藤する。だけど私は、彼との出会いのチャンスを逃したくはなかった。私は思い切って、突撃する。
「あ、あの」
「え?」
自分から男性に声をかけるのは、久しぶりかもしれない。正面から見ると、さらに美しい顔が見えた。私の頭は混乱した。何を話しているか分からなくなるが、相手が紳士的に対応してくれた。なんとなくで、会話することが出来てしまった。
気が付くと、私は自分の携帯番号を書いたメモを渡して、その場から離れていた。何を話したのかも、よく覚えていない。彼と付き合ってみたいと思って、そんな行動に出た。
だけど、よくよく考えてみると背が高くて、愛想も良く、顔がキレイな男性に彼女が居ないわけがない。
いや、もしかしたら万が一という可能性も。次に出会ったら、彼女が居るかどうか聞き出せると良いが。そもそも、混乱せずに会話を出来るようにしないと。
とにかく私は、アルバイト先での出会いを神様に感謝した。
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