第8話 イケメンはモテるらしい

 アルバイトの採用が簡単に決まり、シフトについて面接担当の男性と話し合った。授業が終わって放課後の時間にシフトの時間を調整してもらって、こちらの要望通りの予定を入れてもらうことなった。


「じゃあ、明日から早速よろしくね」

「よろしくお願いします」


 面接担当の男性に頭を下げてから、スタッフルームを出る。礼儀正しく対応して、一緒に仕事をする人への印象を良くする。


「ふぅ」


 面接が終わって、一息つく。すぐに次のアルバイトが決まって、本当に良かった。これから1週間ぐらいはアルバイトの面接を受け続ける覚悟で居たけれど、一発目で決まってくれたから助かった。


 今日の予定は終わったので、これからスーパーに寄ってから家に帰ろう。この後の予定について考える。


「あ、あの」

「え?」


 スタッフ用の廊下を抜けて、外に出ようとした瞬間に声をかけられた。振り向くと20代ぐらいの年上お姉さんが立っている。ファミレスの店員が着ている制服を身にまとっていた。ここで働いている人だろう。


「もしかして、あの、新しくアルバイトに入る人ですか?」

「はい。そうです。お姉さんは」

「中本です。中本さゆりって言います!」

「あ、はい。中井祐一です」

「え! 名字に同じ”中”があるんですね! 偶然! すごい!」

「え? あぁ、まぁ、そうですね」


 共通の部分を見つけて、スゴイとはしゃぐ彼女。一文字だけしか合っていないし、結構あり得ることだと思うが。


「あ! 私は、ずっとここで働いていて。一緒に働くことになりますねッ!」

「えぇ。そうですね。よろしくお願いします」

「……」

「……」


 テンションの高い元気なお姉さんだな。だけど、どういった用件で話しかけてきたのか分からず、思わず黙って見つめ合ってしまった。


「えっと……、それで俺に何か?」

「あっ! い、いえ。えっと見かけたから声をかけただけで。その、一緒にお仕事を頑張りましょうね」

「は、はぁ……」


 それだけを言いに、わざわざ話しかけてきたのか。まぁ、これから一緒に働くことになる同僚とのコミュニケーションは大事なのかな。挨拶も終わったから、帰っても大丈夫なんだろうか。判断に迷う。


「……」

「……」


 無言で見つめ合う時間が続く。向こうが視線を外してくれないから、どう対処するのか分からない。


「ッ!」

「ん?」


 するとお姉さんは制服のポケットから小さな手帳を取り出し、胸ポケットに差したボールペンを取り、手元で何かを書き始めた。どうして良いか分からず、俺は黙って眺めていた。


「こ、これッ!」

「え? これは?」

「わ、私の携帯番号です。何か、仕事で困ったことがあれば、相談して下さいッ! それじゃ」

「あ、ちょっと」


 お姉さんは手帳の紙を破って、押し付けるようにして渡された。渡された紙には、何かの番号が書かれている。どうやら電話番号らしい。そのまま言うことだけ言って顔を真っ赤にすると、走り去っていった。


 お姉さんは、テンションが高かったわけではなく恥ずかしがっていたのか。この、俺の顔を見て。


 これは、逆ナンというやつなんだろうか。当然、生まれて初めての経験だった。


 やはり世の中は、顔なのかな。顔が変わっただけで女性の方から声をかけられて、電話番号を渡されるなんて。生まれてはじめて、モテるという体験を味わった。

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