第5話 授業に溶け込む仮面学生
始業時間になりチャイムが鳴って、教室に先生が入ってくる。1限目は数学の授業だ。メガネを掛けた中年の男性教師が、教科書と授業の資料を片手に持って、教壇の上に立った。
「ん?」
数学教師の視線が、俺の被っている仮面に向けられたのが分かった。それは当然、気になるだろうな。さて、どうやって外さず許可してもらうか。第二の難関だ。
「おい、中井。なんで、そんなもんを顔に被ってるんだ? 授業を始めるから、外せよな」
「いえ、違うんです。これは流川君に貰って、気に入って被ってるんですよ」
「ん? 流川が?」
「はい。僕が彼に、プレゼントしました」
俺から流川へと、視線が移る。彼は頷いて肯定した。誰がプレゼントしたとかは、あまり関係なさそうだが数学教師も流川の名前を聞いて少し動揺していた。だけど、すぐに視線は俺に戻ってきた。
「いや、それは別にいいんだが。仮面は数学の授業に関係ないからな」
「いいじゃん、先生! 別に迷惑じゃないし」
「そうそう。授業の邪魔はしないし、良いんじゃないですか?」
「いや、まぁ、うーん。そうか?」
数学教師に注意されそうになった時、クラスメートたちが擁護してくれた。ただ、彼らは俺のためを思ってではなく、面白そうだから言ってるだけだろうな。しかし、生徒たちが一斉にかばい立てる状況と勢いに数学教師は呑まれていた。
「そうだな。とりあえず、私の授業では仮面を取る必要はない。許可する。だが他の先生が取るように指示したら、言うことを聞くんだぞ」
「はい。わかりました」
ということで、俺は仮面を被ったまま授業を受けてもいいという、許可を貰った。数学の授業がスタートする。
高校2年生のクラスメートたちの中に、1人だけ民族的な仮面を顔に被った生徒が真面目に授業を受けている。傍から見ると、とても奇妙な光景だと思う。でも仕方がない。外せないんだから。この仮面の下に隠してある、突如変化した俺の顔を見せるわけにはいかないから。
「ほら! 授業に集中しろ。中井に仮面を外すように言うぞ!」
「はーい!」
「わかりましたッ! 授業に集中します」
「仮面は続行で」
「じゃあ、ちゃんと耳を傾けろよ」
「はい」
授業の最中、チラチラと俺の被っている仮面を見て笑う生徒が何人か。数学教師が集中するように注意をする。ダメなら俺の仮面を外すように指示すると、脅し文句に使われていた。
1限目の授業が終わって、2限目の現代文が始まった。そして3限目に、4限目の授業を受ける。昼食の時間を挟んで、5限目の授業を受けた。
結局、その日は全て仮面を被ったまま授業を受けることが出来た。担当の先生たちに許可をもらって、仮面で見えにくい視界の中で授業を受けながら、黒板を凝視してノートに授業内容を書き写していく。
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