第2話 朝は学校に行かないと

「あ、やべ。学校に行く準備をしないと」


 時計を見ると、7時を過ぎていた。鏡を見て自分の顔を確認しすぎていたようだ。7時半までには家を出ないと、高校の始業時間に間に合わなくなってしまう。


 慌てて顔を洗って、歯磨きを済ませる。バターを塗って、その上にハムにチーズ、卵を載せたトーストを焼いている間に、高校の制服に着替えた。


 とある事情により高校生になってから一人暮らしを始めた俺は、食事も全て自分で用意しなければならない。1年以上も1人で暮らしてきたので料理にも慣れてきた。料理を安く、美味しく仕上げるコツも習得して、今朝も短時間で美味しく食べられる朝食を完成させる。




「うん。パンは、いつものように美味いな」


 いつものように、朝食のパンは美味しいと感じるとこが出来た。顔は別人のように変化していたが、舌や口の中、味覚などに異常は無いようだった。体に異常はない。ただ見た目が変わっていただけ。




 飯を食べ終わって、学校に行く支度が整った。もう一度だけ、鏡を確認してみる。特に変化は無かった。鏡に映る俺の顔は、見慣れない超美形のまま。一体なんなんだこれは。やはり、顔の見た目が変わった原因は分からないまま。


「さて、どうしょう」


 このまま俺は、普通に学校へ行って大丈夫なのか。いや、絶対にイジられるだろうと簡単に想像できてしまう。一晩でこんなにも見た目が変わってしまった俺の顔は、注目を集めてしまうだろうな。


 もしかしたら、この変化した顔なら周りも優しくしてくれるかもしれない。だが、そんなポジティブに考えることが出来なかった。以前のブサイク顔が既に知れ渡っているから、いまさらこんなキレイな顔になったとしてもイジられ方は、変わらないと思う。


 せっかく、イジメの対象になるようなブサイクだった俺が苦労して立ち回りに気を配り、イジられる程度の立場に収まったというのに。周りの注目を集めてしまえば、下手すればイジりが過激化してイジメに発展するかもしれない。それは嫌だな。


 どうにかして、周囲からの注目を集めずにやり過ごす方法はないか。家を出ないといけない時間が迫ってきている。このままでは学校に遅刻してしまう。どうしよう。




「あ、そういえば……」


 俺は、あることを思いついた。使わないものを色々と保管している押入れの奥の方を探して、目的のものを発見する。取り出してきたソレは、以前にクラスメートからプレゼントされた奇妙な顔の仮面だった。


 プレゼントされた時、ブサイクな俺の顔に似ていると言って被らされた。そして、仮面の方がマシだなと笑われたけれど、要領よく立ち回って何とかやり過ごした時のモノだった。


 そんな、いわくつきの仮面を俺は手にとって被ってみる。目、鼻、口を全て覆って顔はちゃんと見えなくなる。目のところに穴は空いているが、小さくて視界が悪い。つまり、向こうからも俺の目は見えていないと思うが。


「これは、いけそうかな」


 プレゼントされたものだから捨てられずに、一応保管していた仮面。まさか再び、コレを使う日がやって来るとは予想していなかった。


 突如変化した顔は、とりあえず仮面で見えないようにした。これで、学校に行ってみる。教科書などを入れたカバンを肩にかけて、俺は家を出ることにした。

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