天地 ②’
「何か、最近ずっとみんなで揃って遊んでないよね」
昼休み。窓の向こうの曇り空を見つめながら、クウはぼそりと呟く。もしも五人が揃っていれば、この昼休みも運動場に出て、体を動かして遊んでいるのが日常だった。
今その日常は、遠い彼方にあるようだ。
「ま、今はどうしようもないよ。時間がかかるものだと思う。僕も正直言えば、まだ立ち直れてないしね。……気にかかることがあって、そっちに意識がいってるから、マシなのかもしれない」
「気にかかることって?」
「んー、まあ色々」
そう言ってはぐらかしてみたものの、
「……黒スーツの男の人、見たことある?」
「え? ないけど。そんな人が村にいるの?」
「見たって人がいてさ。誰なんだろうっていうちょっとした好奇心」
「ほえー。暑苦しいね。六月なのに」
「というかこの村でスーツだよ」
「目立つね」
「だね」
クウも興味を抱いたらしい。だが、やはり目撃はしていないようだ。
「んーでもでも、私最近、ワタルとツバサちゃんの秘密は目撃しちゃったけどね」
「ん? 秘密?」
「そうそう」
何となく下品な笑みを浮べて、クウは小刻みに頷いた。何かオヤジっぽいぞ。
「ワタルとツバサちゃんって、毎日ノートを交換してるみたいでねー。中身は知らないけど、交換するっていったらやっぱり日記しかないでしょ?」
「ああ、交換日記ってやつ?」
「それ! しかも一冊じゃなくて二冊ってところがすごいよね。毎日お互いのこと知りたいっていう愛が伝わってくるなあ」
「あんまり妄想しすぎないように。……というか、交換日記じゃないかもしれないんじゃ」
「いやいや。毎日交換するのは同じ、赤と白のノートなんだよ。学校の帰り道に交換してるみたい。二週間前に気付いてから、たまーに盗み見てるんだけどさ。一昨日も、ワタルくんが赤のノート、ツバサちゃんが白のノートを交換してたんだ。ヒカルは気付かなかっただろうけど」
「気付かなくて悪かったね。あんまりそういうの盗み見るのもどうかと思うよ」
ひょっとして、という思いも頭をよぎるが。
クウも、そういうものに憧れたりするのだろうか。
「でも確かに、罪悪感はちょっとあるかも」
「ん?」
意外にも素直にクウがそう認めたので、僕は拍子抜けする。
「いやさ。なんか照れ臭そうな感じだったらまだいいんだけど、なんていうかなあ」
クウは頬を掻きながら言う。
「けっこうマジメな顔してさ。二人で、明日も頑張ろうとかいうもんだから。なんかこう、付き合いたての恋人というより、もっとこう……深いものを感じたというか?」
「……あんまり妄想しすぎないように」
聞いているこっちが恥ずかしくなってしまう。というか、そう感じてしまう僕も妄想しすぎているのだろうか。いや、そうでもないはずだ。
「んー、いいよなあ、二人の秘密って。青春って感じがする」
「……日記、したいの?」
さりげない口調を意識しながら、僕がそう聞くと、クウは突然顔を赤くして、
「だ、誰がヒカルと日記なんかするのよ。絶対堅苦しい日記になるじゃない」
「いやそんなことはないかと……」
「まあ、日記はワタルとツバサちゃんのものだし」
クウは僕から目を逸らしながら、言う。
「私たちは私たちなりの何かがあれば、それでいいんじゃない?」
思わぬカウンターだ。僕はその言葉に、照れ臭くなりながらも、頷いた。
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