裏切り
海良は建物の外に出ると、すぐにマシンガンで怪物たちを撃ちまくった。銃弾は怪物たちの口内に直撃し、甲高い悲鳴が響いた。マシンガンで怪物たちを狙い撃ちにしながら、海良は駆け出した。
怪物たちは鋭い目つきで海良に狙いを定めて追いかけてくる。海良は袖を捲って左手首に巻いた腕時計型の機械を操作する。満足そうな笑みを浮かべると、止めとばかりに追いかけてくる怪物たちの口内を狙い撃ちした。怪物は呻き声を上げて地面に突っ伏した。
しかし、銃弾を躱した怪物が海良に襲い掛かってきた。海良は無表情でマシンガンを怪物に向けて撃った。だが、すでに弾薬は空になっていた。
海良がポケットに手を伸ばそうとした時、銃声が響き、怪物は地面に倒れた。海良は銃声が聞こえた方を向いた。そこにはライフル銃を手にした老人が立っていた。
「ふん、元海軍のワシをなめるんじゃないぞ、怪物め」
老人は鼻息を荒くして呟くと、海良の元に近寄ってきた。老人は海良の左手首を見て驚いたように足を止めた。目を見開き、老人は左手首と海良を交互に見た。
「き、君はいったい何者……」
「黙れ」
海良は隠し持っていた拳銃をポケットから取り出すと、老人の頭をためらうことなく撃った。老人の額から大量の血が流れ、後ろに倒れ込んだ。
するとタイミングを計っていたかのように、建物の陰から怪物が現れて海良のお腹に鋭い角を突き刺した。海良は叫ぶことなく、冷静に銃口を怪物の口に押し込み、引き金を引いた。怪物はゆっくりと横向きに倒れた。海良のお腹からは
海良は冷たい視線で老人の死体を一瞥すると、左手首の機械に視線を向けた。機械の画面には怪物たちの詳細なデータが表示されている。データの送り先は
☆☆
水上は千賀崎と手をつなぎながら走っていた。水上たちの周りには白波ら自衛隊員が守るように周囲を警戒していた。チラリと横を見ると、千賀崎は不安そうな表情を浮かべていた。坂水木も似たような表情だった。
水上は先ほど海良から渡された拳銃に視線を向けた。考えたくない事だったが、もし白波たちが怪物に殺されてしまったら、自分の身を犠牲にしてでも千賀崎を守らなければならない。自分がどうなろうとも千賀崎は守りたかった。彼氏として千賀崎を守る責任がある。千賀崎だけではない。坂水木たちのことも守りたかった。
大野寺もじっと拳銃を見つめていた。もしかしたら大野寺も同じようなことを考えていたのかもしれない。
水上も周囲を警戒しつつ、白波の方に視線を向けた。白波は無線で外で待機している部下と連絡を取っているようだった。美善町内にヘリコプターを呼ぶと、先ほどのように怪物に撃墜される可能性があった。そこで美善町の外に出て安全を確保したうえでヘリコプターで脱出することになったのだ。自衛隊員の内の何人かは建物内に入り、他に生存者がいないかを確認していた。
すると自衛隊員の一人が小さい子供を数人ほど連れて建物から出てきた。自分たち以外にも生存者はいたようだ。ただ自衛隊員が連れ出したのは子供だけで、親らしき人物は見当たらなかった。もしかしたら親は怪物に殺されてしまったのかもしれない。子供たちが涙を流しているところを見ると、その可能性が高いように思われた。
泣き止まない子供たちの姿を見た千賀崎と坂水木は駆け寄って抱きしめた。子供たちは感情を垂れ流すかのように、千賀崎と坂水木の胸に顔をうずめて泣き続けた。千賀崎と坂水木は優し気な表情を浮かべて子供たちの頭を撫でた。その表情からは不安気な感情は伺えなかった。残された子供たちを守らなければならない責任感が芽生えたのかもしれない。二人が子供たちを守る決意をしたのなら、こちらも覚悟を決めなければならない。必ず千賀崎たちを怪物の魔の手から守ってみせる。
そう決意した時、怪物の咆哮が聞こえ、すぐに白波たちが周りを見回した。水上も拳銃を構え、辺りを見渡す。水上たちが逃げてきた方向から四足歩行で鋭い牙が生えた怪物が駆けてきていた。怪物の口元に何かが見えた。どうやら怪物は老人を咥えているようだった。脳裏に浦野が食われた光景がよぎった。
その光景を振り払おうと水上はわずかに頭を振り、拳銃を怪物に向けた。怪物は頭を振り、咥えていた老人を投げてきた。いち早く気付いた法堂が老人を受け止める。その隙を突くかのように、怪物が法堂に襲い掛かった。水上と白波がほぼ同時に銃口を向け、怪物を撃った。銃弾は怪物の口内に直撃し、ゆっくりと音を立てて倒れた。
「……この老人、怪物に殺されたわけじゃなさそうだ。額に銃創がある」
法堂がポツリと呟いた。水上は法堂の言葉に驚き、老人を見た。確かに老人の額には銃創が見受けられた。この老人は美善町のどこかにいる生存者に殺されたということか。しかし、いったい誰が何のために老人を殺したのだろうか。警戒しなければいけないのは怪物だけではなくなった。老人が何者かに殺された以上、生存者にも気を付けなければいけない。
「私たちと同じ人が老人を殺したと言うのですか? いったい誰がそんなことを?」
坂水木は悲しげな表情を浮かべて老人の死体を見ていた。
「額に銃創がある以上、人間が殺したと考えるべきだ。誰がやったかまでは分からないが」
法堂は坂水木にそう応えて老人の瞼を降ろして目を閉じさせた。それから法堂は遠くを見つめた。さっきまで身を隠していた建物がある方角だった。きっと海良のことが心配なのだろう。水上も海良の無事を祈っていた。
「ここからはより慎重に行動した方がいいだろう。誰が老人を殺したか分からない以上、生存者を見つけてもすぐには近づかない方がいいかもしれない。犯人か否か判断したうえで生存者を救出しよう」
法堂の言葉に白波たちは頷いた。法堂が言うように、生存者には近づかない方がいいだろう。もし拳銃を所有していたら危険だ。この美善町のどこかに老人を殺した犯人がいるはずだ。
「それじゃ、先へ進もう」
法堂はそう言うと、歩き出した。水上たちも法堂に続いて歩き出した。
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