確執

翌日、義男は善三の部屋に居た。

「父さん。僕は、海外には行かないよ。自首す事に決めたから。」

「義男。なにバカな事を言ってるんだ。

おまえは、わしの言う事を聞いていればいい。向こうの段取りは既に出来ている。心配するな、いいな。」

「嫌だ!俺はもう逃げない!」

「バカ野郎!!」善三の拳が、義男の左頬に炸裂した。義男の体は、部屋の隅まで吹っ飛び、鼻から大量の血を流した。それでも義男は、善三を睨みかえした。そして、立ち上がると、自分の部屋に戻って、夕方まで一度もでてこなかった。そして夜7時頃、上着を羽織って、家を出て行った。

気付いた善三は、すぐ部下に義男の後をつけさせた。

内田修司は、捜査中止命令を無視して、車の中から大矢倉邸を見張っていた。そこへ、義男が、家から出てきたのである。内田は、歩く義男を慎重に車であとをつけた。すぐにタクシーを拾って、246号線に入った。「どこに行くつもりだ。」内田は舌打ちした。

義男は、吉田優のところに向かっていた。

吉田優は、義男の幼なじみで、六本木のbar 「Sunny 」でバーテンをしている。

義男は、心が許せる友達は吉田優しかいなかった。途中義男はタクシーを降りて近くのパチンコ店で時間を潰し「Sunny 」に着いたのは午後11時過ぎであった。内田は、義男が入って5分後に店に入った。店内は薄暗く奥に真っ赤なカウンターで、バーテンを中心にコの字になっていた。義男は、入って右端に座っていた。髪をうしろにまとめて、白いシャツに赤い蝶ネクタイ、そして、黒のベストを着た女性と話している。二人は内田に気付いていない様子である。

「じゃあ3時ね。」

「ああ。一旦裏から出て、直接おまえんとこ行くよ。」義男は立ち上がると、トイレの方へ歩いて行った。吉田優は内田に気付くと、慌てて注文をとった。内田も義男がトイレに入ったと思い、ほっとして胸元からハイライトを取り出ししてタバコに火をつけた。内田の前に先ほど注文した、ハーパーのソーダ割りが置かれた。少し口をつけて義男を待ったが戻ってくる気配がない。

内田は、トイレに入った。中には誰もいなかった。トイレの手前の従業員専用ドアが少し開いていた。「やられた。」内田は急いで専用ドアから、店の裏側にでたが、後の祭りだった。

内田は戻って吉田優を問い詰めようとおもい、振り返った瞬間、頭に強烈な衝撃を感じた。内田は、朦朧とした状態のなか、目の前にスーツ姿の男が、二人立っているのが見えた。左の男の手には鈍く銀色に光るバールが見えた。「おたくら、捜査は中止になってるはずだが、懲りないねえ。だから、こうなるんだよ。」男の一人がしゃべったところで内田は気を失なった。





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