19万と9277回、対峙(退治してる)

富士山麓対魔王要塞研究所。政府国家安全保障会議(NSC)直属の秘密機関である。書類上は内閣府の外局、地球温暖化問題対策本部として位置づけられ、形式的な予算と内閣機密費の使用権限が付与されている。


その実態はいくつもの世界線を跨いで続く不俱戴天の敵を狩る闘いの拠点だ。


因果律にあらがい、大宇宙の意思に背く存在――魔王。その反存在である勇者。

両者は宇宙開闢以来、姿形を変えて衝突して来た。

どちらが正義でどちらが悪という二元論では語れない。表裏一体あるいは相補する関係でもない。いうなれば両者の存在じたいが争いの火種なのだ。


お互いが滅ぶまで全力でぶつかり合う。

199277ラウンド目の今回は宇宙の辺境。地球と呼ばれる場所が選ばれた。

勇者とその妻は二足歩行する知的生命体として転生した。

彼らには闘いをつかさどる「大宇宙の意志」より特別な恩寵を賜っている。

聖剣バスタードソードだ。二大勢力同士をただただ決闘させるだけではつまらない。意志は魔王に抗う勢力を分散し、群体の結束力を試すことにした。

チームワークの乱れによる戦力の集中を補う名目としてバスタードソードの登場が許された。

「バスタードソード。北極圏の永久凍土から出土したそうよ」

ビキニアーマーに着替えた妻が銘板を読んでいる。

「由来なんかどうでもいい。整ったのか? 放っていくぞ」

西洋風の鎧甲冑にマントを羽織った勇者が声を荒げる。どんなに時代が変わろうとも女の身支度は時間がかかる。

「待って」

女は汗止めの呪文を呟くと、カチャカチャと防具を鳴らしながら後を追った。

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