魔王からの挑戦状

西暦20XX年。ついにと言うか、念願かなってというか、ようやくというか、人類はファーストコンタクトを果たした。それも敵意を持った地球外来種の来訪である。

「フゥーハハハ!」

ニューヨーク、北京、パリ、ロンドン、モスクワ。人類に仇なす侵略者の母艦は各国首都に影を落とした。半径十キロはあろうか。有象無象の金属パーツを纏ったデコレーションケーキがぽっかりと浮かんでいる。祖父母の生まれる前から「その方面のジャンル」に慣れ親しんだ人々は取り乱すこともなく、淡々とスマホを向けた。

すると、各端末に専用アプリが自動的に配信され、コンテンツが立ち上がった。

「げっ?!降伏勧告とか威嚇とか、なしかよ」

人々は拍子抜けした。敵は一枚も二枚も上手だった。相手の文明を解析しつくし、効率的な侵略方法を準備していた。戦争とは文明同士の衝突である。特に近代文明において情報戦は武力行使より重要だ。侵略者は報道各社に資料を送信するなど至れり尽くせりの体制で挑んできた。

自分達が何者で、どういう目的があるか。人類に何を求めているのか、見返りは何か。SNS上に公式サイトが開設され、動画をふんだんに使った説明がなされた。


「お得オプションてんこ盛りに見せかけてるが、要するに死ねって事じゃん!」

本栖湖畔。うらぶれた保養所に偽装した研究施設で少年がわなないた。

「座して死ぬ積りはないんでしょ?」

黒髪で鼻筋の通った少女が問いかける。「ああ、それは奴らも判っているだろう」

ガバ、と身を起こす。培養槽から抜け出すと濡れた体のまま部屋の奥に向かった。

ターコイズブルーの透明ケースに身の丈半分程の剣が納まっている。

「聖剣バスタードソード…今回もついて来てくれたのね」

少女は駆け寄り、いとおしそうにケースを撫でた。

「これで19万9700…幾らだっけ。忘れた。とにかく転生はこれっきりにしてやる」

「そう願いたいものだわ…でも、何だかんだ言って、あなたはわたしに逢いに来る」

少年の方を向き、くすっと笑う。

「そうかもな。また相打ちになっちまって、やり直しだ」

「わたしたち、そういう宿命なのよ」

少女は距離を縮めようとする。だが、一歩踏み出した途端に制止された。

「待て」

「なぁに?」

怪訝な顔する。

「お前に言っておきたい事がある」

少女の耳がピクリと動いた。つややかな黒髪から角のように飛び出ている。彼女は人間ではない。

「な、なんなのよ」

少年にまじまじと見つめられ、顔を赤らめる。

「その、言いにくいんだが」

「じれったいわね! 好きなら好きと言ってよ」

「ああ…」

少年はくるりと後ろを向いた。

「もう!イライラする」

「苛立たしいのはこっちだ! いいかげんに服を着たらどうだ」

「…? ?? …! ――!!!!!」

言葉にならない声と破壊音が響いた。

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