第5話 異世界転移したら友人が出来た(色々問題あり)
食後のお茶を出してアミスにこの後のスケジュールを聞くと、そろそろ帰ると言う。王女であり勇者だからね。色々忙しいんだろう。
「お風呂はいいの?別に俺は全然OKだけど」
「ううん。食事まで出してもらってそれに浴場まで借りるのはさすがに、ね」
「いい食べっぷりだったもんな」
「もう!その話題は禁止よ!」
先ほどの事を蒸し返すと、アミスはまたも顔を真っ赤にしながらぷんぷんと怒った。だがすぐに笑顔に戻って
「あんなに美味しいものを食べたのは初めてだったの。勿論タツが作ってくれた料理も美味しかったわよ!」と言ってくれた。
「次に来る時はもっと色んな種類を用意しておくよ」
「…他にもあるの?」
アミスが瞳孔をめいっぱい広げて聞いてくる。疑問符で終わっているはずなのに眼力がめちゃめちゃ強い。捕食対象を見ている時の目で見ないでくれない?
「あるよ。一人暮らしである程度カップ麺の保存はしているからね。ざっと10種類以上はあるんじゃないかな?」
醤油、みそ、豚骨は勿論、そこから派生した様々な物を常備している。焼きそばだってあるし食べ飽きる事は当面無いだろう。アミスの食欲だといつまで持つか不安になるけどね。
「またすぐに来るわ!その時まで楽しみにしておく!」
にっこにこの笑顔でアミスはそう言った。と、そこで当初の課題として最も大きいものについてアミスに相談する。
「次来る時でいいからさ、食材を何でもいいから持ってきてくれない?」
「食材?あぁ…確かにタツ自身での調達は難しいわね」
アミスの言葉に頷く。俺の強さはこの世界で最弱(自分で言ってて悲しい)なわけだから、安易に外を動き回るわけにはいかない。アミスに同行をお願いすればいいのかもしれないが、さすがにそこまでおんぶに抱っこは違うとも思う。
それならばアミスに食材の調達をお願いし、それらを調理しながら提供すればギブアンドテイクにもなる。五分五分かどうかはこの際考えない。いずれにせよこのままでは俺は窮するのは間違いないのだから。外には先程倒されたペリクモの死体があるが流石にあれを捌くのは俺には無理だろう。というかあれだけぐちゃぐちゃになってしまっているし、すでに時間が経って血が回ってしまっている。今から捌いても美味しくはならないだろう。
「その代わりと言ってはなんだけど、俺の世界の料理を色々出すよ。アミスが初めて食べるものばかりだろうからアミスも楽しいんじゃないかな?」
「食材を用意するのは全然問題ないけれど、タツの家に保存庫はあるの?」
「あまり大きくないけどあるよ。ほら、そこにある縦長のやつ」
キッチンにある冷蔵庫を指差す。独身男のキッチンには不釣り合いな500Lレベルの冷蔵庫がデン!と置かれている。数年前に家電量販店に行った時に決算セールで安くなっていたので買ったやつだ。どう見ても大家族用だけど半値近くになっていたので買ってしまった。実は翌日には最新モデルが入荷されるのでどうしても今日中に売り切らないといけなかったらしい。売り場に並ばなかったものはそのままアウトレット店などに回されるらしいが、売り場で並べて色んな人が触っている以上は店舗で売り切るしかないんです、と店員が言っていた。さすがに自宅に届いてから隅々を綺麗に掃除したが。
「冷蔵と冷凍なら出来るよ。肉とかは小分けにして持ってきてくれると助かるかな。後の保存はこっちで何とかするよ」
「食材は何でもいいの?」
「うん、恐らく大丈夫。ただそれぞれの食材の特徴とかは俺にはわからんから説明してくれたら助かる」
「じゃあ次に来る時は色んな食材を少しずつ持ってきてみるわね。他には何か必要なものとかあるかしら?」
それは助かるね。どんな食材があるかわからないし、まずは見てみないとな。米があれば最上だけど畜産すら行われていないとすると稲作は無いだろうな。
「いや、当面は食材さえあれば大丈夫。今ある食材でも10日くらいは持つし、アミスが大好きなカップ麺を食べればもっと持つよ」
「じゃあタツがらーめんを食べなくてもいいように一杯持ってくるわね!」
どんだけ好きなんだラーメン。まぁ化学調味料とか使って旨味を極限まで引き出しているからね。飽食の日本で生きていたがやはりカップ麺にしてもレトルト類にしても一つの究極体だからな。女性は別として男で嫌いな奴を探すのが大変な程だ。
「次はそうね…3日後くらいに来ると思うわ」
帰り際、アミスはそう言った。そんなにすぐまた来てくれるのか。さっき見せてくれた地図を見る限り距離感はわからないが今俺がいるルイシュタットの樹海とマジェスティア王国との間はかなり遠いように見えた。もしかすると俺が知らない移動手段などがあるのかもしれない。転移とか飛行とか。それらが無くてもペリクモを倒した時のスピードがあれば行き来出来るのかもしれないな。
「わかった。じゃあその時にはご馳走を用意しておくよ。楽しみにしといてくれ」
どうせ一人だし外にも出られないんだ。自宅内で出来る事なんて精々が知れているから時間は十分すぎるほどにある。
「ほんとう!?とっっても楽しみにしておくわ!」
笑顔で言うアミス。だがすぐに真顔に戻って俺をじっと見てきた。
「でもタツ、絶対に外に出たらダメよ?本当に呆気なく死んじゃうから。次来るまでに私も何かタツの身を守れるような物が無いか探しておくけど、それまでは本当にダメだからね?」
心配する表情でそう言ってくれる。とても有難い事だ。10代後半に心配されている30手前の俺というこの絵面が情けないだけで。
「この家にいる限りはまず間違いなく安全だと思うから。どうしても外に出たくなったりした時はドアを開けたまま景色を眺めるくらいにしなさい」
「そうなの?外を見ているぐらいなら大丈夫なんだ?」
「ええ、私がこの家を視認出来たのはタツが承認した時だから。それまでは開いたままだったドアの存在性すら確認出来なかったんだもの。この森には私以上に強い生物は存在しないからまず間違いなく大丈夫ね」
やっぱり相当な強さなんですね。勇者様。とはいえ、その心配は有難いが俺には無用だろう。
「俺はアミスが思っている以上に臆病だから大丈夫だよ。外に一歩も出ずに過ごす事なんてなんでも無いからね。食材の問題があるから悩んでいただけであって、それをアミスがクリアにしてくれるなら好き好んで危険を冒そうなんて全くこれっぽっちも思わない」
これは本当の事だ。アミスから最弱と言われたからでは決して無く、本心からそう思っている。ビバ引きこもり生活だ。
「あまり広いとは言えないこの家でそんなに長期間籠っていたら私だとおかしくなっちゃいそう」
アミスが少し疑わし気に、少し心配そうに俺を見る。
「その辺はまたアミスが来た時に色々と見せてあげるよ。数年くらいなら引きこもれるさ。友達と遊べる遊戯みたいな物だってたくさんあるんだぜ?」
いや割とガチで思ってるけどね。趣味が無いとは言ったが、それはある程度熱中出来るものが無かっただけであり、引きこもり趣味であるゲームや読書などはそれなりに色々とある。ただそこまでのめり込まなかったというのと、一番の理由としてのめり込む時間も心の余裕も無かったというだけだ。
ゲームとかなら友人と対戦出来るようなものもいくつかはある。アミスは当然ながらゲームは初めてだろうから色々と横で教えてあげながらRPGをプレイさせてみるのも面白いかもな。現代日本の凝り固まった感覚とは別の物を見せてくれるかもしれない。
「友達…?私はタツの友達なの?」
「そうだな。家に招いて食事も一緒にするんだから友達と言っても過言じゃないだろう」
というか一国の王女が来るのに友人ですらないのは憚られる。それでも色々と具合が悪いが。
男の家にやってくる女子高生王女勇者。
そしてそれを承知で自宅に招く30手前独身男性引きこもり。
文字にするとさらにヤバさが分かるね。それでもアミスがいないと野垂れ死ぬ可能性大だから目を瞑るけど。俺の友達発言にアミスは笑ってくれたので気にしない事にする。
帰り際、アミスにお菓子を一つあげた。どうという事は無いレモン味の飴だ。10個が個包装された小さな物なのでこの程度なら荷物にもならないだろう。先ほどカップ麺を出す時に引き出しを漁ったら見つけたのであげる事にした。
「これは飴というお菓子の一つだよ。暑さに弱いから少し注意が必要だけど、簡単に食べられる。噛まずに口の中で舐めながら食べてみてね。小さい飴が10個入ってるから」
「ありがとう。これなら持っていても荷物にならないからいいわね。少しずつ食べてみるわ」
そう言ってアミスは玄関から外に出た。数歩歩いてこちらを振り返り、確かに室内と俺を視認出来たのだろう。年相応のはじけるような笑顔を俺に向ける。
俺は小さく微笑み返して、手を振った。俺とこの世界を唯一繋げてくれる存在のアミス。
さぁ、3日後に来る時にこの世界唯一の友人にどんなご馳走を用意しようかな!
…その前に風呂はいろ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます