9.身を挺して。
「あはははははははははははははは!! 馬鹿なガキめ! あんな小娘の悲鳴ごときで隙を見せるなんて、甘ちゃんにも程がある!!」
立ち上がったハジメは、こちらを見下ろしそう罵声を浴びせてくる。
俺はそれを忌々しげに睨み上げた。しかし、身体に力は入らない。幸いなことに急所は外れているらしく、出血は思ったほどではなかった。
それでも、弾が貫通したことによる痛みは恐ろしい。
前にも喰らったことはあったが、やはり意識が飛びそうになる。
「ぐっ……!?」
だが、ここで気を失うわけにはいかない。
諦めたらすべてが終わりだった。だから俺は唇を噛み、目を見開く。
口の中に鉄の味が広がった。心臓は早鐘のように脈打ち、呼吸はそれに応えるように上がっていく。それでも思考は止めなかった。
相手は拳銃を持っているが、たった1人だ。
慢心か油断、はたまたその両方か。部下を引き連れている様子はなかった。
だがしかし状況は圧倒的に不利。傷だらけのアレンは、ミレイに銃口を向けられていることで動けなくなっていた。アカネは――ついに気を失ったか。
俺は身動ぎ一つに相当な体力を使う。
少しでもなにかをすれば、意識が飛んでしまいそうだった。
「まだだ、考えろ――!」
絶望的な状況。
その中で俺が選んだのは――。
「アレン、受け取れ!!」
「ミコト……!?」
先ほど、黒服から奪った拳銃をアレンの方へと転がすこと。
これがまずは最善の第一手。そして、次に起こり得る可能性に備えて――。
「ぐ……う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
「ミコトくん……!?」
想像を絶する痛みに、眉をしかめながらミレイの方へと駆けた。
すると、ハジメはやや慌てて行動を開始する。
それはミレイへの銃撃――!
「死ねぇ――――っ!」
ダン、という音。
その直後に、俺は背中に激痛を感じた。
覚悟はしていたものの、これはかなり、きつい……。
「ミコトくん、ミコトくん……!!」
倒れ込む俺を支えるようになったミレイ。
彼女は涙声になりながら、俺の名前を繰り返していた。
遠退く意識。その中で最後に見たのは、愛しい女の子の泣き顔だった。
「は――馬鹿め、これで……!」
「御堂ハジメ、これで終わりだ」
後方で、そんな声がする。
アレンだろう。彼はハジメを――。
一発の銃声。
それを耳にして、俺の意識はプツリと途切れた。
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