第2話
目の見えない雌猫が、脚のない雄犬と一緒にいた。
「お前子供産んだことあるん?」犬が、見えない眼で遠くを見つめている猫にたずねた。
「生んだことないけど私、子供、もう生めないねん」猫は口を尖らせて鼻をひくひくさせた。
「そうか、イヤなこときいてごめんな」犬が猫の頭をなめた。
「お前は家族とかおらんやろ? いつもひとりで可哀想やな」猫が見えない眼で犬を見つめた。
「俺、もう家族おらんけど、可哀想と違うよ。いつでも好きなことできるねんで」犬は口を開いて笑った。
「でも、いつかまた、お母さんに会いたいなぁって思うねん」犬は思い出し笑いをした。
「こういう話は、どっちかが可哀想じゃないときにしなあかんな」猫は少し考えてそう言うと、見えない眼であたりをきょろきょろ見回した。
「やっぱり、俺らどっちも可哀想なんかなぁ」後ろ脚が片方無い犬がぱたりと寝転んだ。
「お前は、お母さんもお父さんもまだいるやろ?」
「いるよ、お母さんスゴく憎たらしいねん。早く死んだらいいのになかなか死なへん」猫が笑った。
「お父さんは、よその家に知らん猫と住んでて、まだちょっと眼が見えてるときに会いに行ったら、その猫が“来んな、あっち行け”っていいよんねん。私のお父さんやのに」猫が口を尖らせた。
「お父さん元気やなぁ、脚短くて小さいのに」犬が笑った。
「お前、見たことあるんか私のお父さん」猫が犬の脚にかみついて、犬がキャッと悲鳴を上げて笑った。
「それでも、お父さんもお母さんもいるねんなぁ、お前は」犬がぽつりと言った。
「お母さんも、たくさんおった兄弟も、もう、みんなおらへんから夜、時々思い出してるねん」犬はしょんぼりした。
「一緒にいたろか? 私、邪魔にならへんようにするよ」少しして猫が見えない眼で犬を見つめた。
「そやなぁ、お前がイヤと違うかったらな」
「いやとちがうよ」少しして、猫は犬に寄り添うと小さな声でニャーといった。
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