第2話 村の少年

「ごめんね~うちのバカがデリカシーなくて。どこも怪我してない?」

「は、はい。大丈夫です。……えっと?」


 しばらくして少年が落ち着きを取り戻すと、ルクスたちは草むらに座って話をした。シアは少年が怪我をしていないか調べながら、申し訳なさそうに謝る。

 幸いにも少年は無傷で、先程ルクスにトラウマを植えつけられたこと以外に異常はなさそうだった。

 しっかり者なのだろう。少年はかしこまると、問いかけるような視線をシアに、そして困惑の視線を、シアに殴られてできた額のたんこぶを擦るルクスに向けた。


「私はシアよ。よろしくね。……で、こっちのバカが」

「ルクスだ」


 シアが呆れ気味のジト目を向けるとルクスは答えた。紹介されると少年はしゃきっと背筋を伸ばし、これまた丁寧に正座の姿勢で声を張る。


「こ、コーランです! あの、さっきは助けてくれて本当にありがとうございます!」

「無事で本当によかったわ。でも森に入るのは危ないから気をつけてね? 最近この辺りによく魔獣が出るって噂だし」

「そもそもなんで一人でこんなところにいるんだ? しかもこんな奥深くに」


 当然の疑問にルクスもシアもコーランを見る。するとコーラン自身眉を顰めると、よくわからないといった困窮の面持ちでぽつぽつと話しだした。


「それが、僕にもわからなくて……」

「わからないってどういうこと? 自分でここに来たんじゃないの?」

「違いますよ。僕、さっきまで友達と遊んでたんです。この近くにマルカ村があるんですけど。それで森の近くまで来たら、急に意識が飛んで……気づいたらここにいて、魔獣が」

「村? 近くにあるのか?」


 迷っていたルクスは嬉しいワードに興味を示した。コーランは元気に返事をする。


「はいっ。実は僕、そこに住んでるんです……マルカ村って言うんですけど」

「帰り道はわかるの?」


 次いでシアが問うた。コーランはざっと周囲を見渡すと難しげに唸る。


「うーん……どこか道に出られればわかるんですけど」


 コーランがそう言うと、シアが期待の眼差しをルクスに向けた。ルクスは頷く。


「なら俺たちが道まで案内しよう。丁度荷馬車で道を通ってきたところなんだ。ついでに村まで送ってやる」

「えっ。いいんですか! そんなことまで!? 本当にっ?」

「また魔獣が出てきたら危ないしね。それくらいお安いご用よ」


 内心ラッキーと思っているのだろう。その笑顔は今日イチ輝いていた。


「さ、そうと決まれば行きましょ。暗くなる前に森を抜けないとね」


 言うなりシアはさっと立ち上がると、率先して先を行った。

 よっぽど5時間に渡る長旅に嫌気が差していたのだろう。その足取りはとても軽やかだった。コーランもそれに続く。

 次なる目的が決まりルクスも立ち上がる。

 と、足元に鈍く昏い輝きを放つなにかを見つけ、中腰の姿勢のまま固まる。ルクスは再び腰を屈めると、地面に落ちているそれを手に取った。


「なにしてんのルクスー。早くしないと置いてっちゃうわよー?」

「ああ。今行く」


 シアの呼ぶ声が森林に響く。ルクスは返事をして踵を返した。

 そしてときおり吹く風と木々の葉擦れの音以外に、生物の気配はなにも感じなかった。

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