第11話 最期のあいさつ 2022/10/3
私は、山の中腹にある一軒家に住んでいる
日中から人通りはほとんどなく、通りかかるのはイノシシくらいで、豚インフルエンザが蔓延して、ここ数年はほとんどその姿も見ることもない
この場所に住んで以来、仲良くしてもらっているお隣の奥さんが先日九十半ばで亡くなった
亡くなるひと月前ほどから入院していて、そう長くもないのだろうと思っていた先日、昼間にベランダに出ているとお隣の開いた窓から電話の呼び出し音が聞こえた
普段、電話など鳴らないのを知っているのでついにその時が来たのかと思っていると、やはりそうだった
式は近親者のみでとのことだったのだけれど、日頃から仲良くしてもらっていたので最後くらいはと、通夜に駆けつけて焼香をした
一両日中には荼毘に伏されるのだろう
そんなことのあった、ある日の真夜中、11時57分
雨混じりの風が辺りに吹き荒び、そろそろ寝ようかと考えている頃だった
玄関のインターフォンが唐突に鳴り響いた
以前にも、夜中にどこかでガス管が破裂して、ガス会社が個別にそれを知らせに来たことを思い出したが、それにしても、日付が変わろうというこのタイミングでそのようなこともあるのかとインターフォンの子機に手を伸ばすと、モニターには誰の姿もなかった
以前なら、深夜に友人が面白半分に訪ねてくることもあったけど、そのような友人も近頃ではすっかり落ちついてそのようなことをするはずもない
もしやと思い、内玄関の扉を少し開いて外を伺うが、雨に濡れた玄関先が常夜灯に薄暗く浮かんでいるだけだった
お隣の奥さんは大変育ちが良く、恵まれた人生を歩んできた人だった
もしかしたら通夜に来てくれたこと、今までのことをありがたく思って挨拶しに来たのかもしれないと思った
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