第6話マキ

 前出のように私はよくジョーと散歩に出かけた。

 ジョーの方もまんざら私との散歩を嫌がらなかったというのも前出の通りだ。

 よく二人で散歩に行ったコースにはジョーの顔見知りがいたが、その殆どはジョーの敵だった。キツネは自分以外は「エサか敵」だと言うが、ジョーの場合は、自分以外は「殆ど全部敵」だった。

 通りを曲がって敵にふいに出くわすと、笑った口元が引きつって、うなじから背中の化繊のような毛を逆立てて身体を強ばらせて立ちすくんだ。そして彼女の敵の殆どがジョーに「好奇心や好意」を持っている。ある日、私とジョーが海の公園のベンチで休んでいると、手に乗るくらい小さなチワワが数匹駆け寄るとジョーを取り囲んだ。 ジョーはそれを見て腰を浮かすと横目で私にこう訴えた「うわ、いぬやで、いぬがきた」お前もな。忘れているだけだ。


 そんな彼女にも比較的仲の良い友達がいた。ある日、近所の道を森に向かって歩いているとき、脳天気に先を歩いているジョー以外の生命反応を感じた私が足を止めると目の前の軒先から顔をのぞかせている一匹の犬を見つけた。私が立ち止まってその犬を見つめていてもジョーは気付く気配が全く無く、私がジョーの顔をつかんでその犬の方向に向けるまで気付かなかった。いつもなら背中をモヒカンのように逆立てて怖がるジョーも、このときは珍しく平静で、軒先にいる犬もそのようだった。犬同士の邂逅がこれほど静かなのを私は一度も見たことが無かった。忍者かお前達。そんな彼女の名前は後に聞いてマキと言うらしい。それからもたまに散歩中に出会うことがあったが二匹とも無言で馬が合うのか、会うと「お、まだ生きてたんか」と、近所の医院に集まるお年寄りの様な短い会話をして何事もなかったかのように離れていくのだった。



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