第5話ユカが紹介するひと

 ユカは度々私にひとを紹介する。

 私は子供の頃、父親に「下にいたらお前の声しか聞こえなかった」と階下にいた父に言われるほどよく話すお子様だったが、大人になってから通っていたジムでも、ある会員に「君は女の子とよく話しているよね」と、からかわれたのを別の会員が「いや、彼は女の子以外、お爺さんでもお婆さんでも誰とでも話しているよ、うん」

「こないだ通りかかったお店の軒先で、誰とひそひそ話をしているのかとそっと近づいたら真顔で通りがかりの猫と話していた」と言われるほど話好きだと思われているが、実は人見知りだ。

 人見知りにも色々あって、私の場合は無言で過ごすのが苦手でつい要らぬ事を口走ってしまう。ならその場から逃げ出せばいいではないかと思われるが、前出のユカのようにふり返ったら消えていたなどというすべを持っていない。

 ある日、ユカが私にある人を紹介してくれた(してくれとは頼んでいない)。

 Mさんは母親に強制的に入学させられたインターナショナルスクールを卒業しているのだが、私と違って、ひょっとしたら日本語を忘れているのでは無いかと思うくらい寡黙だった。

 会話の最中に眉間にしわを寄せて思案に暮れるような表情は、余計な事を口走ってしまったのか私を心配にさせるが、ただ考える時間が長いだけだった。見習おうと思った。無理だった。

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