第48話 紫電襲来①
「遅れてすみません! それで状況はっ!?」
ブリッジへと戻って来たアリアとルーシーが持ち場につきながら状況を確認していると、副長のアルバスがレーダーを表示しつつ説明を始めた。
「現在確認されている反応は三つ。いずれも戦艦クラスでそのうち二隻はダガー級、そして残り一隻なのですがリアクター反応から恐らくツヴァイハンダー級と思われます」
「ツヴァイハンダー級……確か『地球連合軍』の最新鋭の宇宙戦艦でしたね。――コンセプトが本艦と似ている戦闘艦……近づかれたら厄介ね。本艦が修理中で動けない以上、オービタルトルーパーによる迎撃が急務か……」
「そうですな。現在、資源衛星『リザード』からオービタルトルーパーが索敵と迎撃の為に十機発進しました。その報告次第でどう動くのが考えるのがいいかと思います」
アルバスの意見にアリアも賛同し、今は状況を見守る事にする。その間、格納庫ではアンデッド小隊が機体に搭乗し待機していた。
『それにしてもさっきはお前にしては珍しく両手に花だったな』
ユウがシステムチェックをしているとモニターにケインの顔が映った。それを横目で見ながらユウは自分の仕事を継続する。
「……見ていたのならどうして顔を出さなかった? 女好きのお前ならあの状況は大好物だったろ」
『あのなぁ、俺だって空気くらい読めるっつーの。あの場に俺がしゃしゃり出てったら空気が壊れるだろ。――それで、お前は誰が狙いなんだよ?』
「狙いって何が?」
『だから、艦長、ルーシー、ケイト、レナ、この四人のうち誰がお好みかって訊いてんだよ、このむっつりスケベが~』
ニヤニヤしているケインを見てユウは溜息を吐く。
「どうして誰も彼も恋愛に話を持っていこうとするのかよく分からないな。俺は恋愛に興味はない。それとむっつりスケベでもない、普通だ」
『無駄話はそこまでにしておけ、二人共。間もなく『リザード』の防衛部隊が敵部隊と接触する。状況次第では俺たちも出撃するぞ』
『ケイン、いつもそうだけど緊張感が無さすぎよ。それとユウは朴念仁が過ぎるから菩薩みたいな人じゃないと相手してくれないわよ』
モニターにアンデッド小隊隊長であるマリクの姿が表示され、ユウとケインを軽く
それと同時に小隊の紅一点であるルカも別モニターに映り緊張感のない話をしていた二人にジト目を向け、その上ユウに止めをさしていた。
「悪かったな、朴念仁で……マリク隊長、敵三隻のうち一隻はツヴァイハンダー級という情報が来ましたが本当でしょうか?」
『……間違いないだろうな。先日陥落したばかりとは言え、『リザード』の索敵システムは生きているからな。あのタイプの戦艦には実力の高いパイロットや高性能機が配備されている可能性が高い。最悪の状況を考えて動くぞ!』
「了解」
『『了解!』』
モニターに表示されていた仲間の姿が消えるとコックピット内が途端に静まり返る。それと同時にユウは自分の中のスイッチが獰猛な戦士に切り替わるのを感じた。
そう、これから自分は人を殺す事も厭わない
<エンフィールド>のブリッジでは『リザード』指令室のシステムとリンクし情報がダイレクトに入って来るようにしていた。
そして、防衛部隊が敵と接触して間もなくパイロット達の断末魔の悲鳴が響き渡っていた。
『何だヤツは……速すぎる! 何処に行った? ……後ろっ、しまっ、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!』
『紫色の機体……ヤツだ……くっ、落ちろ! 落ちろぉぉぉぉ! 落ち――』
ここでパイロット達の音声が途切れ、ブリッジ内が静寂に包まれる。
「……全機反応ロスト……全滅です……」
メイが状況を告げるとブリッジクルー達の表情が重々しいものに変わる。その中で百戦錬磨の経験を持つアルバスは最後の音声から敵の予想がついていた。
「紫色の機体ですか。シャンディ伍長、その後の敵の動きは?」
「は、はい! 敵艦から出撃したオービタルトルーパー隊は、その後こちらに向かって進行を開始しています。……あれ? 一機突出して向かって来ています。後続機の数倍の速度です!!」
その情報はアリア達を更に動揺させた。
これらの情報からアルバスは敵の正体を確信した。
「予想し得る限りで最悪の結果になりましたな。敵は〝ライトニングヴァイオレット〟と見て間違いないでしょう」
「ライトニングヴァイオレット……『地球連合軍』のエースパイロットですね。紫色の機体を駆り稲妻のように一瞬で敵を撃墜する。それによって全滅した味方は数知れない……強敵ですね」
レーダー上で非常識な速度で近づく機影を睨みつつアリアは対策を考える。
しかし、動きの取れない<エンフィールド>では対処のしようが無く、例え動けたとしても戦艦の攻撃に当たるような相手ではないという事は明白だった。
そうなると結局は目には目を、オービタルトルーパーにはオービタルトルーパーをぶつけるしかないという結論に至ってしまう。
『艦長、出撃命令をください』
ブリッジモニターにアンデッド小隊隊長のマリクの姿が表示され、アリアに出撃を請う。
「ドーソン大尉……ですが敵は……」
『誰かがヤツを討たなければ被害が増える一方です。この宙域にいる味方で最も勝率が高いのは我々アンデッド小隊です』
「……分かりました。アンデッド小隊の出撃を認めます」
『ありがとうございます!』
マリクが敬礼をして表示されていたモニターから姿が消えると、それと入れ替わるようにレナの姿が映った。
『作戦行動中失礼します。エンジニアのレナ・メドスです。艦長、<Gディバイド>の出撃を少しだけ遅らせてもらえないでしょうか』
レナの意外な申し出にアリアは少し驚きつつもその真意を確認することにした。
「現状、一分一秒が大切な状況です。その状況下で機体出撃を遅らせる理由を教えていただけますか?」
『<Gディバイド>は現状リミッターが掛けられた状態です。先の戦闘では偶発的に解除されはしましたが、今の状態ではその性能を百パーセント発揮できません。リミッターを任意に解除できるように機体のシステムを一部変更するのに十分ほど時間をください』
「……アルマ少尉からはあなたがリミッター解除に対し拒否的だと伺っています。それを今どうして?」
『リミッターを解除した<Gディバイド>は暴れ馬と化し、その分パイロットへの負担は大きくなります。アルマ少尉の安全面を考慮すれば、そういう判断をせざるを得なかったんです。――でも、今回は相手が悪すぎる。性能を発揮できないまま、あれと戦えば<Gディバイド>の勝率は低いという結果が出ました。それならば、出来る限りの手を尽くし後はアルマ少尉に託す以外にないと考えました』
「分かりました。機体のリミッター解除についてはアルマ少尉が希望していた事ですし了承します。ですが事態は一刻を争います。作業はなるべく早く済ませてください」
『分かりました。ありがとう、ルミナス艦長』
礼を言うと作業に取り掛かるためレナの姿はモニターから消えた。
一方、出撃態勢に入っていたアンデッド小隊の三機は次々にカタパルトデッキに向かい、左舷と右舷デッキにマリクとケインの<セルフィーカスタム>がセットされていた。
カタパルトデッキの外部隔壁が開放され二機はそのまま真っすぐ飛行し出撃する。
「<エンフィールド>が修理中でカタパルトのシステムが使えないとはいえ、これじゃ何か格好がつかないぜ」
「文句を言うな。いつも通り発進したとしても<ナイチンゲール>のドック内から出るために減速する必要があるから意味がないだろ。いつまでも無駄口を叩いていないで手を動かせ!」
「へーい」
二人に続いてルカ機も出撃しユウを除いたアンデッド小隊は高速で接近してくるライトニングヴァイオレットとの戦闘準備に入るのであった。
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