第42話 新たなる脅威①

 ――木星圏エリア3ドライ。未だ地球連合軍の勢力下にあるこの宙域において3隻の戦艦の姿があった。

 そのうち2隻は『地球連合軍』巡洋艦ダガー級であり、もう1隻は赤色を基調とした戦艦である。

 『地球連合軍』ツヴァイハンダー級宇宙戦艦3番艦<ブリューナク>、『地球連合軍』が有する戦艦の中でも特に高性能な部類に入る。

 この艦のブリッジでは艦長のランタナ・ジョーンズ大佐に呼び出されたオービタルトルーパー隊隊長のロイド・アーカム少佐が真剣な面持ちで画像データを閲覧していた。

 白い短髪は品よく整えられ清潔感を感じさせており、眉目秀麗な外見をしている。身長は180センチメートル程の長身で細身ではあるが鍛えられた肉体が制服の上からでも分かる。


「これらの画像は先日『シルエット』の部隊に落とされた資源衛星リザードから送られてきたものだ。降服する直前に送信してきたらしい。ロイド、お前はこれが何だと思う?」


 現在ロイドがにらめっこしているのは、白い光を全身に帯びて宇宙空間を疾走する物体であった。それはまるで夜空を舞う白い鳥を彷彿とさせるものだった。

 ランタナの問いにロイドはあごに手を当て暫く考えながら、静かに口を開く。


「……まさかとは思いますが、これは戦艦……ですか?」


「正解だ。他の連中は一目でこれを戦艦とは判断しなかったが、さすがは〝ライトニングヴァイオレット〟といったところかな」


 ランタナは少し悪戯っぽい笑みを見せながら他の画像データをモニターに表示させていた。


「ロイド、〝ヴェル現象〟という言葉を聞いた事はあるか?」


「はい、確かターミナス粒子を限界まで高出力化させたときに起こる現象……であったと記憶していますが」


「そうだ、高出力化したターミナス粒子が赤色に変化するのは一般的に知られている事だが、さらにその先……ヴェル現象を経たターミナス粒子は白色へと変貌するらしい」


「つまり、この戦艦が放つ白い光はヴェル現象により生じたターミナス粒子……だと?」


 ロイドは再び白い粒子に包まれた戦艦の画像に見入っていた。白い光に包まれながら暗い宇宙空間を飛ぶ姿を純粋に美しいと感じていたのだ。


「ロイド、見惚れている場合ではないぞ! 戦艦クラスがヴェル現象を利用した兵器を搭載しているなんて話は聞いたことがない。現にその力でリザードが落とされている。これまでの『地球軍』と『シルエット』のパワーバランスを崩しかねない存在だ。それ故我々は当初の任務を変更し、この艦の撃破の任に就いたというわけだ」


「それで私がここに呼ばれたわけですか。しかし、いくら何でも警戒しすぎではないですか? 強力な装備があると言っても所詮は戦艦1隻の話です。機動性で勝るオービタルトルーパーで叩けば、それほど脅威にはならないでしょう」


 画像に映る白い戦艦――<エンフィールド>を眺めながらロイドは余裕を見せていた。

 オービタルトルーパーによる波状攻撃によって戦艦はその火力を発揮することが出来ず撃沈される事はよくあるのだ。

 特にこのロイド・アーカムは、火星戦線を経てこの木星圏での戦闘に身を投じた『地球連合軍』のエースパイロットの1人だ。

 経験上、戦艦よりも機動性に優れたオービタルトルーパ―の方が脅威であると認識しており、高性能な武装を持つ敵戦艦にはあまり興味を抱いてはいなかった。

 地球を出発してからそれなりに付き合いの長いランタナ・ジョーンズ大佐は、そんな彼の心情を見透かしており、他の画像データを彼に見せる。


「まぁ、お前の事だから戦艦にはあまり興味を抱く事は無いと思っていたよ。……話には続きがあってな……その白い艦には〝そいつ〟が所属している。そのため、中途半端なオービタルトルーパー隊の戦力では、艦を沈めるどころか逆に〝そいつ〟に全滅させられる、というわけだ」


 ランタナが説明をする中、その画像を見たロイドの顔がみるみる笑顔になっていく。だが、その笑顔の中、彼の目は獲物を見つけたハンターの如くぎらついたものになっていた。


「ジョーンズ艦長、間違いなく〝この機体〟がこの白い戦艦にいるんですね?」


「間違いない。こいつによってリザードの拠点防衛用に用意されていた大型オービタルトルーパーが破壊されている。並みの機体ではそのような事は不可能だからな」


「素晴らしい! 以前からこの機体とは戦ってみたいと思っていたんです! ……リザードにはいつ頃到着するのですか?」


「……あと約68時間後だ」


「了解しました。では、私は格納庫へ戻ります。失礼しました」


 そう言うと、ロイドはさっさとブリッジから出て行ってしまい、途端にブリッジは静かになる。

 

「艦長、お疲れ様でした」


「ああ、すまん……まったく、あいつはいつまで経っても落ち着きがないな。敵からライトニングヴァイオレットと言われ恐れられてはいるが、実際には新兵よりも落ち着きがない戦闘馬鹿だからな。……まだ20代前半とは言え、いつになったら本艦のオービタルトルーパー隊の隊長としての自覚が出るのやら……」


「心中お察しします」


 ため息をつきながらランタナが視線を向ける画像には、白いオービタルトルーパー――<Gディバイド>の姿が映し出されていた。

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