第43話 新たなる脅威②

 <ブリューナク>の格納庫では、13機のオービタルトルーパーが各ハンガーに収まり調整を受けていた。

 その中に緑色を基調とする機体が2機――『地球連合軍』新型オービタルトルーパー<ストレリチア>。小隊規模の隊長機用に開発された機体だ。その先行試作型がデータ収集のため、先日配備されていた。

 この艦のオービタルトルーパー部隊である『アヴァロン中隊』。そこに所属するニコル・パッカード中尉、エミリア・シャガ中尉両名が専任パイロットに選ばれ現在調整を行っていた。

 エミリアはコックピットで機体慣熟訓練用シミュレーターを起動させていた。今までの『シルエット』のオービタルトルーパーとの交戦データを基に作成されたものだ。

 この仮想敵との戦闘で彼女のスコアはSと高評価を叩きだしていたが、経験上シミュレーターと実戦は同じようにはいかないため、彼女はこの評価を鵜呑みにして喜ぶような性格はしてはいなかった。

 シミュレーターを終えた彼女がふとモニターを見ると、そこに見知った人物が映し出される。

 ブリッジに呼び出されていたロイド・アーカム少佐であった。モニターに拡大で映し出された彼の表情は何処か機嫌が良さそうだ。

 だが、それは根っからの戦闘馬鹿である彼にとっての話であり、大抵こういう時はろくでもない事が起きているものだ。

 きっと今回もこれまでの例に違わず一波乱あるのだろうと女の勘が言っている。


「何だかめんどくさい事になりそうね」


 エミリアがコックピットから降りてロイドにブリッジに呼び出された要件を確認しに行くと、既にニコルが彼と話をしていた。

 ニコルは片手を額に当てて溜息をついており、いつものようにロイドのテンションに付いていけなくなっているようである。


「ロイド少佐ブリッジからお戻りになったんですね。それで艦長はどのような要件だったのですか? まぁ、何となくいい話ではなかったのは予想がつきますが」


 エミリアは辟易した様子のニコルを横目で見ながら淡々とした口調で話しかける。ロイドは隣で頭を抱えている同僚とは異なり生き生きとした表情を見せていた。


「ああ、エミリア、艦長から次の任務の話があったんだ。これを見てくれ」


 ロイドは2枚の画像データを彼女に見せる。1枚は宇宙を飛翔する白い鳥のようなデータ映像、もう1枚は全身から赤い光を放つ白いオービタルトルーパーのデータ映像だ。彼女の勘が当たった瞬間であった。


「……つまり、我々は次の任務でこの画像に映っている敵と戦うという事ですね」


「そうだ、理解が早くて助かる。この白い鳥のようなものは報告によると戦艦であるとの事だ。そしてこのオービタルトルーパーなんだが――」


「少佐、あなたがやたらニヤニヤしている理由が分かりました。隣でニコルが溜息をついている理由も。良かったですね念願かなって白い死神と戦える機会が来て、でもきっとそれで喜ぶのは戦闘狂のあなたぐらいのものですよ。本来なら、そこのニコルのような反応が正常な人間のものです」


「相変わらず辛口だな……だが、これは決定事項だ。どのみち死神とはやり合わなければならない。『地球連合軍』の軍人として責務は全うしなければ……2人とも頼むぞ。勿論白い奴とは私が戦うから、他の敵を頼む」


「……ロイド少佐、最後に本音が出ましたね。結局は白い死神と戦いたいだけじゃないですか! ……まぁ、私も軍人なので任務には最善を尽くしますが……」


 ニコル・パッカード中尉は大変真面目な性格をした軍人の鑑のような男だった。パイロットとしての腕前も優秀であり、『地球連合軍』のエースパイロットであるロイドの片腕を務める程である。

 本来ならば1個中隊の指揮官になれる程の実力なのだが、彼はロイドの下で働くことを強く希望しているため、昇進や異動を断り続けていた。

 さらに言えば、ロイド率いる『アヴァロン中隊』は13機のオービタルトルーパーで編成されているのだが、隊長であるロイドが真っ先に戦場に突撃するため、実質的に彼が中隊の指揮を執っている。

 それに加えてロイドやエミリアの援護も同時にこなしており、今日の『アヴァロン中隊』があるのは彼のおかげであるという事実は関係者ならば誰でも知っている事であった。

 それを一番分かっているのはロイド本人であり、ニコルは彼にとってなくてはならない女房役と言えるであろう。


「ニコル、すまないな、また迷惑をかける」


「いえ、そんな事は……それより少佐、あまり単機で突撃しないでくださいよ」


「ああ、気を付けるよ」


 そう言いながら、ロイドはハンガーに身を委ねている愛機に視線を送っていた。

『地球連合軍』試作機<カラドボルグ>、ロイドのパーソナルカラーである青紫色に彩られ、戦場での閃光の如き活躍から〝ライトニング・ヴァイオレット〟もしくは〝紫電〟の異名を持つ機体である。

 『地球軍』のオービタルトルーパーの特徴である横一文字に光るアイカメラを持ち、額には剣を連想する前方に突きだした特徴的なセンサーブレードを有している。

 『地球連合軍』と『シルエット』の戦いにおいて後に語り継がれる〝白い死神〟と〝紫電〟の戦い。その2人の邂逅の時が近づいていた。

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