第39話 GディバイドVSハルバード③

「なかなか粘るじゃないか、白い奴! でも、さすがに動きが鈍くなってきたなー。そろそろ終わりにしようや!!」


 <ハルバード>のパイロット、サンス・ベリアは未だに落ちない<Gディバイド>に苛立ちを覚えていた。

 専用のパイロットスーツによって<ハルバード>の加速時にかかるGは軽減されているというものの、それでも身体への負担は大きく、疲労感がピークに達している。

 このまま戦闘が長引けば機体は無事でも自分が壊れてしまう。そんな焦りが強くなっていた。


「少々危険だが、クローアームで捕まえて握りつぶしてやる!」

 

 <ハルバード>は、今までとは異なる軌道をとり<Gディバイド>に正面から突っ込んで来る。

 ユウは敵の突撃を回避しようとするが、互いのターミナスレイヤーがぶつかり合った衝撃で機体が弾かれてしまう。

 突然の強烈な衝撃によってユウは一瞬めまいを引き起こすが、かすれた視界の片隅に左舷が破壊された<エンフィールド>の姿を捉えていた。


(<エンフィールド>……このまま俺がやられたら、次はあの艦がやられる。……俺達の母艦が……)


 ユウは先日アリアと握手を交わした事を思い出していた。自分達『アンデッド小隊』を認めてくれた数少ない理解者。

 自分とそんなに年齢が変わらないはずなのに艦長として切磋琢磨せっさたくまする彼女に、尊敬の念を抱くようになっていた。

 他にも、この艦のクルー達は軍人らしからぬ変わり者ばかりであったが、割と打ち解けやすく居心地がいい場所になっていた。失いたくない大事な場所だ。

 薄れかけた意識の中、そのように思っていると頭の中に誰かの声が響いてくる。


(…………守れ…………生きて…………待って…………だろ)

 

(お前…………帰らないと…………やっと…………人間らしい…………)


 断片的に頭の中で再生される男の声。それも1人だけではなく複数人の声が響く。


「これは……以前にもあった……誰かの声……なんなんだ? 俺に何を伝えたいんだ?」


(守れ…………守れ…………守れ…………守れ…………守れ…………守れ…………)


 ユウの中で同じ言葉が繰り返し再生される。それは彼の中で次第に大きくなり、心を思考を埋め尽くしていく。

 うつむいていたユウが顔を上げると、その瞳は淡い光を放ちモニターに映る敵を睨み付ける。


「…………俺が……守る……!!」




 敵は右腕のクローを展開し<Gディバイド>目がけて突っ込んで来る。そして、それが衝突する瞬間、ギリギリで攻撃の手を回避し距離を取る。


「行くぞ<Gディバイド>……今お前のかせを外す!」


 ユウはメインスラスターを全開にして<ハルバード>に向かって行く。だが、その接近に気が付いたサンスもまた自機のメインスラスターを全開にして距離を取ろうと考える。

 前方に急加速し、強烈なGがサンスの身体をシートに押し付ける。ある程度距離を稼いだところで敵との距離をレーダーで確認しようとすると、コックピットに警報音が鳴り響く。

 それは敵の接近を知らせるものであった。レーダーを確認すると<ハルバード>のすぐ後方に1機のオービタルトルーパーの反応があり、その姿がモニターに映し出されていた。


「バ……バカな……なんでこのスピードに付いてこられるんだ?」


 モニターの向こう側では白い機体が後ろにぴったりと張り付いており、その赤い双眸そうぼうが自分を睨み付けている。

 そこに強烈な殺意を感じ取ったサンスは、恐怖からさらに機体を加速させる。

 だが、それでも白い機体を引きはがす事は出来なかった。それどころか、敵は徐々に距離を詰めてくる。

 資源衛星リザードの宙域を大きく旋回するように全力で飛行する<ハルバード>とそれに付いていく<Gディバイド>の姿が<エンフィールド>のモニターに映し出されていた。

 ブリッジの誰もがその異様な光景を固唾かたずを呑んで見守っていた。すると、そこに変化が見られた。<Gディバイド>から赤い光が放出され始めたのである。

 <Gディバイド>のコックピットではアラートが鳴っており、モニターには『リミッター解除』と表示されていた。

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