第36話 パラライズ・アタック⑥
ユウとマリクが恨めしい表情でモニターに映る巨大な敵を睨む。『アンデッド小隊』はその機体の同型機との戦闘経験があった。
その時も味方に甚大な被害が出ており、撃破するのに相当苦労したのだ。
見た目は全長30メートルを超える巨大な戦闘機に腕が生えているという面白い形をしているが、推力を機体後部に集中する事で得られる突進速度や大型ジェネレーターによる大出力は、並みのオービタルトルーパーのパワーを凌駕している。
機体性能が優れる<Gディバイド>でもパワー勝負では分が悪い。その厄介な敵は、『シルエット』のオービタルトルーパー隊に甚大な被害を与えると、興味はないとばかりに戦場を離脱する。
「一気に勝負をつけずにどこに行こうというの?」
敵の動きを不審に思ったルカが敵の進行方向を確認すると、そこには1隻の戦艦がいた。
「皆、まずいわ! あいつの目標は<エンフィールド>よ!」
「くそったれ! 俺達は最初から眼中にはないってか!」
マリクが急いで<エンフィールド>に戻ろうとするが、そこを敵の残存部隊が邪魔をする。
「ちぃっ! こいつら! 邪魔をするなっ!」
『兄さん、無茶をしないで! そのままじゃ囲まれてやられるわ!』
「! だが、このままじゃ<エンフィールド>が!」
ルカ機の援護攻撃で何とか包囲網から離脱するライトグリーンの<セルフィーカスタム>であったが、さらに敵が押し寄せる。
『隊長、ルカ、ケインはここを頼みます。俺は奴を追います!』
持ち前の高機動性と火力で<カトラス>の包囲網から抜け出す白い機体は、背部のメインスラスターを全開にして敵の大型機を追っていく。
『ユウ、いくらなんでも無茶だ! いくら<Gディバイド>でもたった1機では! せめてケインを連れていけ!』
ユウ機のコックピットモニターにマリクの顔が大きく映ると、ユウは冷ややかな視線を送る。
「マリク隊長、どアップで映らないでください、
『なっ! それはちょっと酷くない!?』
ユウの
『ちょっとユウ! 何言ってるのよ、それが良いんじゃない!』
「黙れブラコン」
『な、なんですってー!!』
ルカが怒りの雄叫びを出すのと同時に通信をシャットアウトする。途端にコックピット内部は静まり、操縦桿を握り直しながらユウは前方にいる巨大な敵を見やる。
リザードのオービタルトルーパー隊と交戦中の『アンデッド小隊』3名は、損傷した友軍機を撤退させながら、敵機体を落としていく。
「ケイン! お前は<エンフィールド>に戻ってユウとあのデカブツを叩け!」
『何言ってるんですか! 今俺が抜けたら隊長やルカはともかく他の味方が危険になります! 現状で何とかもたせてるんですよ!』
「しかし……!」
『それに、あいつなら大丈夫ですよ。なんてったってうちのエースなんですから』
「! そうだな……ああ、お前の言う通りだ! 俺達は味方機を守りつつ敵を殲滅するぞ」
『そうね、それが私達『アンデッド小隊』のやり方だものね。それじゃあ、とっとと敵を叩いて<エンフィールド>に向かわないと!』
一方、<エンフィールド>に向かう大型オービタルトルーパー<ハルバード>のコックピットではパイロットのサンス・ベリア曹長が笑みを浮かべていた。
彼は<ハルバード>が加速時にかかる猛烈なGに耐えられるように過酷な訓練を行い、選任パイロットとなった。
だが、戦闘を行ったのはリザードを占拠する際の1回だけであり、敵の抵抗もほとんどないものであった。
その後、資源衛星リザードは難攻不落の要塞と化し戦闘らしい戦闘もなかったため、せっかくの大型機も宝の持ち腐れでの状況が続いた。
転属を希望した事もあったが、この<ハルバード>は拠点防衛の要としてリザードでの運用を余儀なくされていたため、要求は通らなかった。
そして現在、数か月ぶりの、それも初の本格的な戦闘を経験し、彼のアドレナリンは最高潮に達していた。
自分達の基地に甚大な被害をもたらしたあの白い戦艦を叩く。そして、群がる敵を殲滅する。
戦いに飢えていた彼は、水を得た魚のように生き生きしていたのである。
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