第15話 初陣②

 艦長の急な方針変更に一番驚いたのは、今まさに<エンフィールド>と戦っている最前線のパイロット達であった。

 ただでさえ近づく事も出来ないのに、拿捕しろと言うのは無理難題もいい所である。戦闘中に、相手を〝無力化する〟という行為は〝沈める〟事より何倍も難しいのだ。

 下手をすれば、隙を突かれて自分が命を落としかねない。

 アグリ艦長はどちらかと言えば堅実な性格をしており、こんな無茶な作戦を提示した事は無かった。それ故、彼が内に秘めていた‟欲〟の暴走によって周囲は、やや困惑していた。


「くそっ! いくらオービタルトルーパーがいないからって、あの火力は危険だぞ!」


『とにかく、援軍が来るまで突っ込むな! どのみち3機の火力だけじゃ奴のレイヤーを破るのは難しい』


『分かった!』


 <エンフィールド>と対峙する3機の<カトラス>のパイロット達の選択は懸命であった。

 眼前の戦艦の性能は未だによく分からない。まだ使用していない強力な武器を確実に持っているだろう。

 そんな危険な奴を相手に、これ以上無茶はしたくない。3人の考えは一致していた。




 <エンフィールド>のブリッジでは、なおも食い下がる3体の敵機に苦戦を強いられていた。

 最初は一気に突っ込んできた所を、一網打尽にしようと考えていたが、このパイロット達は思いの他用心深いらしい。

 付かず離れずを繰り返し、こちらの手を誘ってくるのだ。ここで、簡単に手の内を晒してしまえば、対応策を講じられたちまちピンチに陥るだろう。

 膠着状態が続き、時間だけが過ぎてゆく。味方のオービタルトルーパーがいない中での戦闘は厳しいとは思ってはいたが、実際は予想以上だ。

 実戦の厳しさをアリアは現在進行形で味わっていた。いや、彼女だけではない。<エンフィールド>のブリッジクルー全員が同様に感じていた。

 その時、新たに警報音が鳴り別の敵の接近を知らせる。レーダーには、『地球軍』の戦艦1隻とオービタルトルーパー4機の反応が見られる。


「そんな……ただでさえ3機で手一杯だってのに、さらに4機と戦艦も――」


 ルーシーの顔は青ざめている。この数の火力が集中したら、5層あるターミナスレイヤーも永くは持たない。

 そうなったら、計7機のオービタルトルーパーによるリンチの果てに戦艦の主砲に撃ち抜かれて終了だ。

 そんな未来が、後もう少しで現実になるのだ。だが、艦長のアリアは絶望してはいなかった。この戦いで実戦とシミュレーションが違うというのは身をもって経験した。

 だが、状況が変わる瞬間というのはピンチであると同時にチャンスでもあるのだ。それは、軍人である彼女の父が教えてくれた事であった。

 <エンフィールド>への攻撃に参戦した4機が一斉に攻撃を開始する。この4機は、より強力な武器を所持していた。

 2機はバズーカを所持し、もう2機は両肩辺りに何やらゴツイ武器が見える。それを見たアルバスは、目を細めて厳しい表情をしている。


「あの2機はどうやら、対艦用のミサイルランチャーを積んでいるようですな。直撃すれば……ヤバいですな」


「くっ……対空防御は密に! 特にミサイルランチャーは優先で迎撃!」


「了解!」


「もう奥の手を取っておくとか言っている場合じゃないか。……主砲用意! いつでも撃てるようにしておいて」


「了解、主砲スタンバイ!」


 <エンフィールド>艦首上側の一部ブロックがせり出し、2連装の砲門が出現する。

 狙いは、ミサイルランチャーを積んでいる<カトラス>2機だ。その内1機が他の機体に護衛される形で<エンフィールド>に接近する。


「照準、前方11時方向のミサイル搭載機。主砲、メサイア! 撃てぇぇぇぇぇぇ!!」


 アリアの叫びと共に<エンフィールド>の主砲である2連装ハイパーターミナスキャノン‟メサイア〟が発射される。

 重装備ではかわし切れずに、ミサイル装備の<カトラス>は、高出力のビーム砲に飲み込まれ蒸発するのであった。

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