第14話 初陣①

「全砲門解放、ホーミングレーザー、ターミナスキャノン、スタンバイ!」


「了解、全砲門解放。ホーミングレーザーチャージ開始、ターミナスキャノンいつでも撃てます」


 ルーシーが武装の使用がいつでも可能である事を伝えると、アリアはコクリと頷く。だが、まだ撃たない。

 射程圏外からの砲撃では、武器の威力は減衰するし、機動力の高いオービタルトルーパーにはそもそも回避される可能性が高いのだ。

 できるだけ近づけて、一気に叩く必要がある。この艦の武装は強力であり、直撃すれば例えオービタルトルーパーといえど無事では済まないだろう。

 この艦の性能を敵が把握しない内に出来るだけ数を減らしておきたい――それがアリアの考えであった。

 敵機が<エンフィールド>の攻撃範囲に侵入した。ブリッジには敵の接近警報が鳴り響く。だが撃たない。もっと近くに誘い込んで――。

 モニターに映るオービタルトルーパー<カトラス>が携帯武器であるライフルを構える。

 敵も攻撃態勢に入った――今だ!


「ホーミングレーザー一斉射! 続いてターミナスキャノン発射!」


 アリアの命令により解き放たれる高密度のターミナスエナジーによる8つのビーム砲の嵐が<カトラス>小隊を襲う。

 自分達が攻撃を開始しようとした瞬間に、戦艦が一斉射を開始したため、やや慌てふためく。

 急いで回避行動に移るが、変則的な動きで向かってくるビームの群れをかわし切る事が出来ず、4機中1機が2発の直撃を受けて爆散した。

 機体表面には、防御層であるターミナスレイヤーが展開されているが、<エンフィールド>の強力な武装の前では、紙切れ同然であまり意味をなさなかったのだ。

 他の3機は追尾性のあるビームの攻撃をかわし切り、艦に攻撃を行おうとするが、次の一手が彼らを襲う。

 オービタルトルーパーにも搭載可能な高出力兵器であるターミナスキャノンが、向かってきたのだ。

 2機はこれをぎりぎりで避けるも、1機はターミナスシールドを展開し攻撃を受ける。

 量産型機である<カトラス>の機体出力では、この砲撃を完全に受け流すことは出来ず、シールド発生装置のある左腕がシールドごとえぐり取られるのであった。

 最初の一手で与えられた損害は撃破1機、小破1機であった。出来れば3機に損害が与えられれば良かったが、改めて実戦はシミュレーションとは違うという事をアリアは改めて認識させられた。

 無傷の<カトラス>2機と小破した1機は戦闘を継続し、目の前にいる白い戦艦に3方向からマシンガンによる攻撃を敢行する。

 

「ターミナスレイヤー出力最大! 受けきった後にアルスター発射! 対空防御、ファランクス起動」


「了解! ファランクス起動!」


 敵オービタルトルーパーの接近に対しアリアは迎撃指示を出す。CICオペレーター担当のルーシーが艦長の指示を実行に移していく。

 〝アルスター〟は<エンフィールド>に搭載された長射程の防空ミサイルであり、接近しつつある敵に対し使用する。

 〝ファランクス〟は対空防御火器システムで、艦に接近するミサイルの迎撃や敵機への牽制・攻撃に使用される。

 <カトラス>のマシンガンから放たれた細かいビームの束は、戦艦の防御層を打ち破る事は出来ずに虚しく弾かれる。

 しかし、そんな事は彼らは承知の上であり、継続してダメージを与えようと、なおも<エンフィールド>に接近を試みる。

 例え強力な防御層でも連続で攻撃を受ければダメージが蓄積し、局所的に破壊される。対艦攻撃の際は、このような連続攻撃が基本とされているのだ。

 そして、<カトラス>が連続攻撃に出る事を予想していた白い艦の両側面部から多数の迎撃ミサイルが放たれる。

 同時に一斉に対空砲火が開始され、黄土色の3機は距離を詰められないでいた。


「くそっ! なんだあの火力は!? オービタルトルーパーを寄せ付けないとは……」


 『地球軍』サリッサ級<パイク>の艦長ポールは、ブリッジのモニターに映る白い戦艦の健闘を苦々しい気持ちで見ていた。

 既に戦闘に入ったため、彼らの方針は〝拿捕だほ〟から〝破壊〟へと変わっていた。

 だが、そう思う中で、あれだけの性能を有する艦を何とか自分達のものにできないかという欲が湧き上がっていた。

 あれをそのまま自軍の戦力に出来れば、『シルエット』に対し戦力的にも精神的にも打撃を与える事ができる。そうすれば、自分の経歴にさらに箔が付くのだ。

 既に彼の顔からは笑みがこぼれ落ち、周囲に隠しきれなくなっていた。そんな艦長の不気味な表情を<パイク>のブリッジクルー達は、見てみないふりをする。

 <エンフィールド>拿捕の方法を考えるポールは、ふとある事に気が付く。

 本来、戦艦の防衛や敵戦力との戦闘を行うはずのオービタルトルーパーの姿が1機も見当たらないのだ。

 その事実に気が付くと、ポールの笑みはさらに歪んだものへと変貌する。


(なぁんだ、そういう事かぁ~。オービタルトルーパーがいないのかぁ~)


「直ちにあの白い艦に対し、増援を送り込め! コロニー内に入った部隊も戻せ!奴には、すばしっこいオービタルトルーパーがいない。なら、一気に攻撃を集中して武装を破壊し、無力化するんだ! いいか、絶対に沈めるなよ! 拿捕するんだ!」

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