第13話 エンフィールド発進②

 ならば、今自分に出来る事は彼らの出発を快く見送るだけだ。


『……ご武運を』


 <エンフィールド>クルーを敬礼で送り出すレナルドとファクトリーの職員達。 モニターに映る彼らに対し<エンフィールド>のクルー達も敬礼で返すのであった。

 ――そして、リフトはコロニーの外壁部に到着し、艦は固定されたまま宇宙空間にその身を投げ出す形となっていた。

 ブリッジのモニターには、コロニーの外壁と果てしなく続く暗い空間が映し出されている。


「艦長、いいですかな?」


 副長のアルバスがアリアに問いかけると、彼女は彼の目を見ながら頷き再び正面へと目を向ける。


「コロニーの自転との連動開始…………完了。艦長、発進できます」


 ルドルフから報告が入ると、アリアは深呼吸を1度行い命令を発信する。


「リフトとの固定解除、<エンフィールド>……発進!」


「了解、固定解除を確認……発進します」


 エンフィールドはリフトのロックが外れると、各スラスターを微調整し、ゆっくりと母なる大地である〝ベルファスト〟から離れていく。

 ある程度距離を取った所で、徐々にメインスラスターの出力を上げて一気にコロニーから離れるのであった。




 〝ベルファスト〟から距離を取ると<エンフィールド>は、『地球連合軍』部隊との戦闘態勢に入っていた。

 

「各センサーアクティブ。ターミナスレイヤー全層展開」


「了解、ターミナスレイヤー展開します。――全5層の展開完了しました」


 オービタルトルーパーだけでなく、戦艦にも物理防御層であるターミナスレイヤーが装備されている。

 15メートル級の機体と比べて大型で大出力のターミナスリアクターにより展開されるそれは、同時に複数の層を発生させることが可能である。

 一般的な艦は2~3層が標準であるが、さらに大出力の動力炉を有する<エンフィールド>は5層同時に展開する事が可能である。

 これにより、大概の攻撃から身を守る事が出来る。これに加えて、迎撃用及び攻撃用と豊富な武装を持っているのであった。


「ターミナスレイヤーを展開する事で、敵艦のレーダーにはっきり本艦の位置が表示されるでしょうな。一気に敵が群がって来るでしょう」


 アルバスがこの後、この艦に訪れる状況を予見する。

 だが、それは嫌味などではなく、予め状況を推測しておく事で、いざその時に的確に応対できるようにという、彼なりのアドバイスだとアリアは察していた。


(何だかんだで私達をサポートしてくれているみたいだけど、要は私達が実戦をやれるかどうかを、この戦いで見極めたいという事なのでしょうね……)


 


 『地球連合軍』巡洋艦サリッサ級<パイク>のブリッジではレーダーに、高出力のターミナスエナジーの反応が見られていた。


「艦長、ベルファストの外壁周辺にてターミナスエナジー反応があります。規模から考えて戦艦クラスと推測されます」


 報告を受けると艦長のポール・アグリはいぶかしんでいた。突如現れた戦艦は、恐らく例の新造戦艦の可能性が高い。

 しかし、コロニーの外に出てくるタイミングがおかしいのだ。


「狙いが分からんな。逃亡するにしても、付近には我々がいる。それに、この反応は明らかに戦闘準備によるものだ。……まさか、1隻で我々と戦うつもりか? 舐められたものだな」


 『シルエット』の戦艦はいきなり大出力のターミナスエナジーを展開させている。これは明らかに自分達を誘っているようであった。

 だが、目標が最前線に出てきたため、わざわざコロニー内に攻撃をする手間が省けたのである。これを逃す手はなかった。


「他の艦も奴を捉えたな。近くにいる部隊から攻撃を仕掛けるように伝えろ。本艦も向かうぞ」


 ポールは冷静な顔の下で、笑みが浮かぶのを必死にこらえていた。彼はモルジブ戦役からずっと後方支援などの地味な役割が続いており、功績が全くなかった。

 だが、ここで『シルエット』の新造戦艦を抑えられれば自分の経歴にはくが付くのだ。


(ついに俺にも運が回ってきたようだな)




 一方、<エンフィールド>では、レーダーに敵機体の反応が多数表示されていた。接近する機影の存在にブリッジ内は緊張感に包まれる。

 CICオペレーター担当のルーシーが情報を報告する。


「敵オービタルトルーパー接近、数4機。メインモニターに映します」


 モニターに表示される黄土色の機体が4機。編隊を組んでこちらに近づいてくるのが確認できる。

 アリアは、艦がコロニーから十分に距離が取れている事を再度確認すると内包されている武装を解禁するのであった。

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