第10話 アンデッド小隊出撃②

 <レンジャー>の格納庫にはハンガーに固定された4機の15メートル級の巨人の姿があった。

 人類が開発したは、オービタルトルーパーと言われる戦闘用の兵器であり、戦争において主力となっている。

 〝ターミナスリアクター〟を動力炉として搭載し、そこから発生する莫大なエネルギー〝ターミナスエナジー〟により稼働する。

 主力兵器として高出力のビーム兵器を装備し、その他に防御用の兵装として機体全体をコーティングするように展開する防御層〝ターミナスレイヤー〟、高密度のターミナスエナジーを局所的に展開する防御盾〝ターミナスシールド〟を標準装備している。

 オービタルトルーパーが開発された当初は、ターミナスリアクター自体大型で機体も20メートル越えが主流であった。

 しかし、度重なる戦争による技術革新によりターミナスリアクターは次第に小型化・高出力化し、それに応じてターミナスリアクターを動力炉とする各種兵器もダウンサイジングを行う事となった。

 それは主に戦艦や機動兵器の類であったが、特にオービタルトルーパーはその恩恵を最も受けた存在であった。

 頭長高は当初の20メートル級から現在は15メートル級になり、機体が軽量化しただけでなく動力炉の高出力化により、運動性能が飛躍的に向上した。

 さらに主装備であるビーム兵器の性能も向上、ターミナスエナジーを利用した防御兵装も実装されるようになったのである。

 そのような怪物的な進化を遂げたオービタルトルーパーではあるが、それによりパイロットにかかる負担が大きくなっていった。

 大きく向上した運動性能により、加速・制動時にパイロットにかかるGは殺人的なものになったが高性能な対G装置の実装により負担は軽減した。

 だが、その天井知らずの機動性能に対応できるようにパイロットには〝ナノマシン〟による肉体強化が必要となっている。

 人類が宇宙進出を果たした後、過酷な宇宙環境に適応できるように免疫機能等を高めるナノマシンが開発され、スペースコロニーで生活する人々には例外なく投与され、その健康を守っている。

 パイロットにはその強化版ともいえるナノマシンが投与されるのである。これに対する人体の拒絶反応は、ほぼ皆無であった。

 しかし、中には人体に更なる肉体強化を及ぼす非合法なナノマシンの存在が認められていた。

 それに関しては、人体の拒絶反応が大きく投与後は身体の激痛や精神状態の悪化等が認められており、数年前にその研究所の多くが摘発され一時騒動となっていた。



『アンデッド小隊』の4機のうち3機は、<セルフィーカスタム>と言われる機体で、『シルエット』の主力量産機<セルフィー>の強化型である。

 人員や組織としての規模が小さい『シルエット』にとって、パイロットは特に貴重な資源であり、その生還率を高めるために彼らの搭乗するオービタルトルーパーには高い要求が求められていた。

 それは、整備性の高さ、多種多様な任務に対応できる柔軟さ、そして何よりも『地球連合軍』の機体より優れた性能である。

 <セルフィー>はそんな無茶な要求に応えた優秀な機体であった。

 頭部のメインカメラ部がバイザー型となっており、機体各部には様々な装備に換装できるようにハードポイントが設けられているのが特徴だ。

 基本装備のままだと、やや頼りない感じではあるが、豊富な武装によって同じ機体ながら全く異なる性能を発揮できる。

 <セルフィーカスタム>はそんな優等生をエースパイロット用に調整した機体であり、性能が大幅に向上している。

 隊長のマリクの機体は隊長機故に通信性能が強化されている。そして、どのような状況にも対応できるように全体的な性能向上がなされたオールラウンダーな機体だ。

 彼のパーソナルカラーである、ライトグリーンを基調としており基本武装はライフル、近接用兵装のセイバー、腕部のレーザーガンとオーソドックスな内容ではあるが、オプションとしてバズーカや増設ブースター等、<セルフィー>シリーズ特有の豊富な追加装備がある。

 ルカの機体は遠距離支援系の機体で、バックパックに装備されたターミナスキャノンが主力兵装となっており高い火力を誇っている。

 大型武装により鈍重ではあるが、それでも『地球連合軍』主力機の<カトラス>以上の運動性能を誇っている。機体は、ルカの好きなオレンジ色を基調としている。

 ケインの機体は長距離狙撃を得意とするスナイパー型であり、視覚的なステルス性向上のためダークグレーの色をしている。

 彼の天才的な射撃技術と相まって、敵機の攻撃レンジ外から標的を1撃のもとに破壊する。

 ただ、近距離戦は大の苦手で、接近されると危険に陥るという弱点を持つ。

 そして、『アンデッド小隊』にはもう1機オービタルトルーパーがあった。その機体は他とは異なり、試作機として開発されたものである。

 <グラビティディバイド>――〝重力を分かつ〟というコードネームのこの機体はその名の通り、〝地球〟という重力の鎖に繋がれた『地球連合軍』からの侵攻を断ち切るという意思が込められている。

 白を基調としたこの機体は、メインカメラにデュアルアイを採用し、<セルフィー>よりも人間に近い雰囲気を持つ。

 武装はマリク機と同様にオーソドックスで、専用のブラスターライフル、セイバー、胸部レーザーガンとなっている。

 だが、各々の威力は段違いに高く、特にブラスターライフルは通常モードと高出力モードの2つのモードの使い分けが出来るようになっている。

 <Gディバイド>は量産機である<セルフィー>とは異なり、〝単機で戦況を覆す〟というコンセプトにより『シルエット』の最新技術が投入された機体だ。

 圧倒的な高機動性と高火力に加え防御面も隙が無い性能を持つ。だが、その高機動性故にまともに扱えるパイロットがいなかったため、技術開発部に送り返され封印なり解体処分になる予定であった。

 だが、ユウ達が以前所属していた<巡洋艦スプリング>に配備され、選任パイロットとしてユウが選ばれた。

 そして、10ヶ月前に勃発した〝モルジブ戦役〟に実戦投入され、多大な戦果を上げたのである。

 その時の、鬼神のような戦いぶりから『地球軍』から〝白い死神〟と呼ばれるようになっていた。

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