第9話 アンデッド小隊出撃①
コロニー〝ベルファスト〟に向かう輸送艦<レンジャー>は、コロニーを取り巻く不穏な空気を察知していた。
カポック艦長は『アンデッド小隊』の隊長であるマリクをブリッジに呼んでいた。
「ドーソン大尉、先程ベルファストの港に定期報告を何度もしたんだが繋がらなかった。複数のチャンネルを使用したにも関わらず、だ。君はこれをどう見る?」
レーダー画面には通常、艦等のターミナスエナジー反応が鮮明に表示されるのだが、現在目の前の画面では反応が途切れたり、急に表れたりと安定していない。
その様子を見たマリクの表情が一気に真剣なものになった。
「これは……明らかにジャミングによるものですね。つまり、誰かがベルファスト付近で戦闘行為を行おうという意思表示です。……おそらくは」
「やはり『地球軍』に嗅ぎつけられたか! 何てことだ、こんなタイミングで」
「こんなタイミングだからこそでしょう。あわよくば新造艦を奪う気かもしれません。……カポック艦長、私の部下達をここに呼んでもいいですか?」
「ああ、構わないよ」
それからすぐに、ユウ達『アンデッド小隊』の隊員が<レンジャー>のブリッジに集結していた。
そこで、彼らはベルファストが『地球軍』の攻撃を受けている可能性が高い事を告げられた。
一瞬黙ってしまう彼らであったが、すぐにユウが沈黙を破る。
「マリク隊長、俺達はどうしますか?」
マリクはユウの反応に対して腕を組み、色々と考え込んでいるようだ。その様子を見て、カポック艦長は彼らが悩むのは当然だと思っていた。
敵の正確な戦力が不明の中、現在こちらの戦力はオービタルトルーパーがたった4機しかない。
<レンジャー>は単なる輸送艦であるため武装は迎撃用の対空火器システムしかなく、戦力として数えられるものではなかった。
もし、うっかり戦場に出ようものなら一瞬でデブリの仲間入りだ。このような戦力で出撃するのは自殺行為なのである。
懸命な判断が出来るのなら、この場合は回れ右をして戦場から離れるのがセオリーなのだ。
その結果、多くの仲間を犠牲にしたとしても――。
だから、彼ら『アンデッド小隊』もベルファストに行くか行かないかで悩んでいると思っていた。
しかし、彼らの会話をよく聞いてみると、どうやらそうではないらしい。
「まず優先すべきは母艦との合流でしょう? その後一気に敵を殲滅すればいいじゃない」
「けど、敵を放置しすぎたらベルファストに駐留している防衛部隊が全滅するだろ? 連中は見殺しにするっていうのか?」
「なっ! そんな事言ってないでしょ!」
ルカとケインの意見がぶつかり合い、今にも喧嘩に発展しそうな勢いになっていた。
一方でカポック艦長は驚きを隠せないでいた。なぜなら彼ら『アンデッド小隊』は、ベルファストを急襲した敵との戦闘を前提とした議論をしていたからだ。
彼らが悩んでいたのは、どのように戦闘を行っていくかという事であったのだ。
「ちょっと待った。君達はこれからベルファストに向かうつもりなのか? たった4機で?」
「当然です。あそこには多くの友軍と何より我々の母艦がいるんです。オービタルトルーパー隊にとって母艦を落とされるのは自分達は無能と言っているのと同義ですよ」
マリクは至極当然といった表情だ。彼の周りにいる隊員達も彼の意見に対し頷き肯定の意思を示している。
(これが、あの悪評高い『アンデッド小隊』の本当の姿か……)
カポック艦長と<レンジャー>のクルー達は感銘を受けていた。
以前彼らが輸送を担当した小隊は『シルエット』の仲間の命など二の次で、窮地に陥っている彼らを平気で見捨てていたからだ。
確か、あの小隊はエドワード・モンステラ中将傘下の部隊であったか――。
そのような事があってか、カポック艦長達はパイロットにいい印象を持っていなかったのである。
しかし、それは自分達の偏見に過ぎないと思い直すのであった。
「マリク隊長、提案があります」
「おっ、ユウ言ってみろ」
「<エンフィールド>防衛には、まず俺が1機で行きます。隊長達は友軍を援護しつつ、<エンフィールド>に合流する、というのはどうですか?」
「……だが、そうなるとお前の負担がでかいぞ」
「問題ありません。それに<Gディバイド>は<セルフィーカスタム>よりも機動力が上です。全力で飛ばせば、他機よりも早くにベルファストに到着します。なら、その間に艦に合流してしまえばいいかと思ったのですが……」
「……確かに<Gディバイド>は俺達の機体より段違いの性能を持っているからな……やってくれるか、ユウ?」
「了解です」
『アンデッド小隊』の母艦との合流作戦は決定した。彼らは数分後にはパイロットスーツに着替え、格納庫にいる自機の前にいた。
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