第8話 前途多難

『ルミナス艦長、悪い知らせだ。『地球連合軍』に嗅ぎつけられたようだ。既に連中は部隊を展開し、コロニーに侵入を試みている。現在、防衛部隊が迎撃に出ているが如何せん戦力が違いすぎる。……すまない、我々の失態だ。ここまで敵の接近を許すとは……』


 レナルドは苦渋に満ちた顔を見せている。だが、彼らは『シルエット』内でもオービタルトルーパーを始めとする兵器の生産を担当しており、戦闘を専門には行っていない。

 この〝ベルファスト〟のファクトリー防衛部隊も実戦経験は乏しく戦闘は不慣れであったため、狡猾こうかつな敵の接近に気付くのが遅れてしまったのだ。

 しかし、実戦においてはそんな言い訳は通用しない。こちらの状況は関係なく事態は進んでいく。

 そして、このままいけば敵は<エンフィールド>がいるドックにまで侵入し、下手をすれば、この艦は出港を目前にして奪取もしくは破壊されかねないのだ。

 そのような結末は、この艦を製造したファクトリーの人間にとって許しがたい事であった。

 この艦は、今後の『地球軍』との戦いにおいて重要な役割を担う存在であると確信して、任務に携わってきたからだ。

 自分達のプライドと技術を最大限に投入して、やっと完成にまでこぎつけた。それをみすみす『地球軍』のいいようにやられるのだけは我慢がならなかったのである。


『ルミナス艦長、我々に提案がある。まず、我々はできるだけ多くの敵機をコロニー内に誘いこむ。そうしたら、<エンフィールド>はルート6でコロニーを脱出し、一番近い友軍の基地に向けて撤退するんだ。それなら、敵の目をかいくぐって逃げられるはずだ』


 その作戦を聞いた際に、<エンフィールド>のブリッジ内でざわめきが起きる。それは当然の事であった。


「ファーセット工場長、そんな事をすれば多数の敵の侵入を許したあなた方は全滅してしまう可能性が高いはずです。承服できません」


 レナルドの提案を突っぱねるアリアではあったが、そうしている間にも敵は1機また1機とコロニー内に進入し<エンフィールド>がいるファクトリーに向かってくる。

 どうするべきか、今すぐに決断する必要があった。その時にブリッジの出入り口が開き、1人の男性が入ってきた。

 副長のアルバス・マコーミック大佐であった。熟練の軍人の登場により、的確な指示が得られるとホッとした空気が漂う。

 そのような中、彼はアリアを見ると彼女の指示を仰ぐのであった。


「ファクトリー側とのやり取りは端末から聞いていました。艦長、我々はどう動きましょうか?」


「ちょっと待ってください、副長! いきなりこんなピンチな状況なんですよ? こういう時こそ、長年の経験に基づいたアドバイスをお願いします」


「そうですよ。お願いします副長」


 ルーシーとメイがアルバスに助言を求めていた。その他のブリッジクルー達も同様の表情をしていたが、彼は一通り皆の顔を見るとおどけた姿勢を崩さず淡々と話し始めた。


「戦時において、ピンチな状況というものは常に突然やってくるものです。その中で必要なのは、現状での限られた情報に基づいて如何に素早く的確な状況判断が出来るかと言う事ですよ。あなた方はそれが出来る逸材達です。……なので、作戦はあなた方にお任せします。それに私、実は作戦立案とか苦手なのです。私に任せると後悔しますよ? 私にできるのは、若い皆さんを応援するかダジャレで場を和ませる事だけです」


(((さ……最悪だ!)))


 再び、ブリッジ内に緊迫した雰囲気と副長への絶望が広がる中、皆の視線は艦長であるアリアへと注がれるのであった。


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