第11話 アンデッド小隊出撃③

 『アンデッド小隊』の4名はそれぞれの愛機のコックピットに搭乗し、システムの立ち上げを行っていた。 

 動力炉であるターミナスリアクターが独特な高音域の稼働音を上げている。

 4機はそれぞれのメインカメラが光を放ち、その鋼鉄の身体に〝火〟が入った事を告げていた。

 <輸送艦レンジャー>はカタパルトをベルファスト側に向け艦を固定する。

 マリク機のコックピットでは、モニターにデジタル処理された周囲の風景が映っており、そこに<レンジャー>のブリッジや『アンデッド小隊』各機のパイロットを映しているウィンドウが開いている。


『ドーソン大尉、こちらは射出準備完了だ。いつでも出撃できるぞ』


「カポック艦長、ここまでありがとうございました。我々が出撃した後は手筈てはず通りに基地に帰還してください」


『すまない……、次に会った時には一緒に酒でも飲もう』


「そいつはいいですね、楽しみにしてますよ。……よし! 『アンデッド小隊』出るぞ!!」


『『『了解!』』』


 機体をロックしていたハンガーの拘束が外れ、機体射出用のカタパルトに移動し出撃が可能になると、カタパルトの横に設置してあるモニターが赤から緑に変わる。


 次々と<レンジャー>のカタパルトから射出される、鋼鉄の巨人。

 <レンジャー>のカタパルトは戦艦のものと比べて距離も短く簡素な作りなので、正確には〝射出〟というより〝押し出す〟という感じに近かった。

 宇宙に放り出された4機はメインスラスターを全開にし、<レンジャー>から離れていく。

 <レンジャー>のブリッジではクルー達が離れ行く4人に対して敬礼し見送るのであった。


『……兄さん、あんな約束しちゃっていいの?』


「なんだ、突然?」


『お酒を飲もうっていう話。兄さん下戸げこでしょ? せいぜい飲めるのは1杯ぐらいで、すぐに寝ちゃうじゃない。付き合わされた方は迷惑!』


「分かってるよ。だから、お前にも来てもらうぞ。ルカは酒豪だからな~」


『……まったくもう、しょうがないわね』


 マリク機のモニターに映るルカはまんざらでもない様子だ。彼女は酒が割と好きであり、何より重度のブラコンなのである。

 兄の頼みは何だかんだで「しょうがないわね~」といって聞いてくれるのだ。

 そのため、彼女には彼氏が出来た事はないのだが、その話題は禁忌なのでユウとケインは触れないようにしている。

 以前、ユウがそれとなく指摘したら彼女に滅茶苦茶怒られ、説教が終わった時にはユウの目は死んだ魚のようになっていたのだ。彼は、軽くトラウマを植え付けられたのである。

 その一部始終を見ていたケインは、自分は同じてつは踏むまいと深く心に誓うのであった。


「マリク隊長、それじゃあ俺は一足先に行きます。<エンフィールド>との合流後は手筈通りに」


『ああ、敵主力へのプレッシャーはこちらで与えておく。艦に合流後はいつも通りにやれ』


「了解」


 2人のやり取りを聞いていたケインはおどけて、ルカは真剣な面持ちになっていた。


『ユウ、ここは1つ大暴れして艦の連中をドン引きさせてやれ』


『何バカな事言ってるのよ! ユウ! くれぐれも程々にね! 分かった?』


「……善処する。アンデッド4先行する」


 そう言い残すと、<Gディバイド>はさらに加速し、他の3機を引き離し、やがてレーダーの圏外へと消えていく。


「よし! 俺達も急ぐぞ! 友軍の援護と<エンフィールド>の退路を確保する!」


『『了解!』』


 <セルフイーカスタム>3機もメインスラスターを全開にして、ベルファストに急ぐのであった。



 『地球連合軍』の奇襲がベルファストを襲う中、<エンフィールド>のブリッジでは、どう動くべきか答えを見出せないでいた。

 頼りにしていたアルバスは、作戦立案には非協力的であり自分はムードメーカーだと言い出す始末である。

 そんな彼は放っておいて若者達は最善の手を考えている。そして、艦長であるアリアが顔を上げたのであった。


「……我々は、ファーセット工場長の指示通りにルート6でコロニーを出ます」


 それを聞いた、クルー達は各々驚きや、仕方がないと言った表情をしながら彼女の指示を聞いていた。

 副長であるアルバスが、先程までとは異なり真剣な表情になっている事には皆気付かなかった。


「艦長、それじゃファクトリーの人達は見殺しにするんですか?」


 アリアの親友であるルーシーが、友人としてではなく、1人のクルーとして彼女に確認をするのであった。

 彼女の立ち位置だからこそ、他のクルーでは聞きにくい事もアリアに問うことが出来る。

 自分は、この艦においてそういう役割を担っているのだとルーシーは直感していた。それも、この副長の計算の内なのだろう。


(この……タヌキじじい)


 アリアはルーシーの問いに答えながら、これからの動きを説明する。


「いいえ! 本艦は直ちにファクトリーを出発します。コロニーの外に出たら、敵艦隊に攻撃を開始し、こちらに敵を誘導します。敵の狙いが本艦であるならば、必ず食いつくはずです」


 ブリッジクルー達が「おおっ」と感嘆の声を上げると同時に、アルバスがこの作戦の危険さを問うのであった。


「艦長、確かにそれなら敵はファクトリーへの攻撃の手を緩めるでしょう。……ですが、本艦が集中攻撃を受ける可能性が高くなります。発進直後の最新鋭の戦艦を沈めるつもりですかな?」


 その発言に、「何を今さら」とルーシー達はキレそうになったが、その一方で彼の言う事も正論であり、自分達の生命に関わる重要な問題であると思うと、何も言えなくなってしまうのであった。

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