第153話 ミスター・スポックの憂鬱。
世界征服研究会によって生み出された知能AI、ミスター・スポックは、このところ憂鬱な日々を過ごしていた。彼はインターネットに存在する膨大な情報を日々閲覧し、それを分析するのが楽しみなのだが、その中に非常に気になる情報を見つけたからだ。
「どうも不穏な情報がありますね。某C国政府が日本の八百比丘尼の存在を知り、特殊部隊を使って、そのサンプルを生きた状態で確保しようとしている様です」
その某C国は日本に比較的近く、その国民は留学やビジネスを通じ、既に数十万単位で日本に定住している。故にその中に特殊部隊のエージェントが存在していても、それを発見するのは極めて困難で、日本の警察や自衛隊の力をもってしても至難の業なのだ。
「八百比丘尼の村に居れば警備は厳重ですから、少人数の特殊部隊が侵入するのは厳しいでしょうが、そうではない八百比丘尼は危険だと言えます。八百比丘尼の外観は小柄色白の少女だというだけで、似た様な一般女性と見分ける事が難しいとは言え、彼らの情報を精査した感じでは、ある程度の特定に至っている様です」
スポックの能力はこの所指数関数的に上昇の一途を辿っており、暗号化された情報もかなりの精度で解析出来る様になっている。その某国が日本国内の特殊部隊とやり取りしている暗号の解析も、かなりの精度で成功していた。
「早苗実業学校高等部に複数の八百比丘尼が在籍している可能性が高い…ですか。どこから情報が漏れたのかはわかりませんが、これは由々しき事態です。まずはビル・G船長に報告しておきましょう」
その日、ミスター・スポックから報告を受けたビル・Gは、
さすがに考え込んでしましった。彼の愛する如月雪音に危機が迫っているのである。しかし、留学生である彼だけで彼女を守るのは難しい。アメリカの彼の父親に相談するにしても、科学万能の信奉者である父が、この話をどこまで信じるか疑問だし、そもそも某C国の特殊部隊に対抗出来る様な戦力を日本に派遣する事は困難だ。
「まずは鈴音先生に話しておくべきデスネェ。
彼女を通してミス・雪音、天音、リーリャにも警告して貰いマショウ」
その日の放課後、終了HRを終えて教室を出ようとする鈴音を
ビル・Gは呼び止めた。
「鈴音先生、折り入っテ、ご相談がアリマス」
「ビル・G君が相談なんて珍しいですね。良いですよ」
「秘密にすべきハナシなので、世界征服研究会の部室にキテ頂けマスカ?」
鈴音はにっこり笑って答えた。「良いですよ」
世界征服研究会の部室で、ビル・Gからの報告を聞いた鈴音は、暫く考え込んでから言った。「ビル君、情報に感謝します。その内容に関しては、日本政府内で八百比丘尼の管理を管轄している、内閣情報管理局の吉田局長に報告しておきます。それと当面、私は雪音と天音、リーリャと一緒に登下校する様にします。早苗実業の大熊野総長にも報告しておきます」
鈴音の言葉を聞いたビル・Gは答えた。
「それはナニヨリです。しかし鈴音先生、先生が武道の達人であるコトはシッテいますが、相手も相当な手練れである可能性がアリマス。くれぐれもお気を付けクダサイ。雪音を宜しくお願いシマス」
「肝に銘じます」
鈴音は真剣なまなざしで答えた。
その日の夜、鈴音は夕食の後、雪音と天音とリーリャに、ビル・Gから聞いた事を一部始終話した。「いいですか?雪音、天音、リーリャ。まだあなた達が八百比丘尼であると特定まではされていない様ですが、今後は目立つ事は出来るだけ避け、慎重に行動して下さい。何かあればすぐに私に連絡する様になさい。この事は八百比丘尼の村の小宰相にも伝え、村にいない他の比丘尼の娘達にも連絡が行くよう、
手配します。それからリーリャ、あなたはロシアで陸軍の軍事体術訓練と銃の射撃訓練を受け、優秀な成績だったと聞いています。プーチン閣下から賜った拳銃を、自衛用に携帯して下さい。許可はあなたが来た時に受けています。」
「お任せクダサイ。鈴音先生」
「そうか、それは厄介な事になったのう。私やリーリャはともかく、雪音姉様が心配じゃ。」
そういう天音に、鈴音は少し厳しい表情で言った。
「天音、武道に自信があるからと言って油断してはいけませんよ。生兵法は怪我の元です。特に実戦経験のない天音やリーリャに、そういう経験を積んだ猛者の相手は難しいはずです。雪音がいれば尚の事、誰かを守りながら戦うのは非常に難しいのですよ」
鈴音のいつにない強い言葉に、天音は少しシュンとなった。
「とにもかくにも、内閣情報局の吉田局長に最善の手配をお願いしましょう。
国際政治にも関わりますから、事が拗れると厄介です」
鈴音はそういうと、早速内閣情報局の吉田虎次郎に連絡を取った。
一方、内閣情報局の吉田虎次郎は、鈴音からの報告を受けて驚いた。しかもその情報源がマイクロソフット社の子息が作った知能AIだというではないか…。実は最近、吉田の元にも別の情報源から某C国による八百比丘尼確保の不穏な動きがあるとの情報が入っており、それを精査すると共に、八百比丘尼の警備を担う陸上自衛隊の特選軍の指揮官にも、警戒強化の要請をしたところだったのだ。
「AIの進化というものがこれ程とは恐れ入った。これは今までの情報収集の考え方を抜本的に変えていかなくてはならんかもしれんな。いずれにせよ、これは我が国に対する不当な内政干渉行為である事は明白。日本国の誉りにかけて、この企みは挫かねばならん」
吉田はそう独り言を漏らすと、関係各所に矢継ぎ早に連絡し、指示を飛ばすのだった…。
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