第150話 教養授業35限目。鈴音先生、日本人男性の悲話を語る。
こんにちは。如月雪音です。
今週も金曜日の3限目の授業が終わりました。
短い休憩時間の後、4限目開始のチャイムが鳴ると、
母上が教室にやって来ます。
「起立!」「礼!」
今週の教養授業の始まりですね!
いつもの様に母上様の優しい声が教室に響きます。
「今日は日本人の男性について、私の思うところを述べたいと思います。
国際連合の持続可能開発ソリューションネットワークは毎年、世界各国の幸福度に関する調査のレポートを発行しています。この調査における幸福度とは、自分の幸福度が0から10のどの段階にあるかを答える世論調査によって得られた数値の平均値で、報告においては、この幸福度を、GDPや健康寿命を含む6つの説明変数を用いて回帰分析して数値を出したものです。2017年から2020年の4年間の平均値を見てみると、日本はOECDに加盟している31ヵ国の中で、
幸福度が20位、逆に不幸度では5位と、国民はあまり自分の事を幸福だと思って
いない事が見て取れます。そしてその中に、日本が際立っているデータがひとつあります。それは何かと言うと、女性の幸福度よりも男性の幸福度が著しく低いという事です。その差は実に14%。女性の幸福度対する男性の幸福度がここまで低い国は他にありません。つまり日本は、女性の方が男性より圧倒的に幸せを感じている国なのですね。
日本の男女の統計で、他の数値を挙げてみましょう。
週に60時間以上働いている男女の割合は、男性が約85%、女性は約15%。
自殺者の割合は男性が約70%、女性は30%。
ホームレスの割合は男性が約96%、女性は4%。
ひきこもりの割合は男性が約64%、女性は36%。
過労死の割合は男性約90%、女性10%。
孤独死の割合は男性約90%、女性10%。
専業主婦(主夫)の割合は、男性約0.9%、女性99.1%。
今の時代、男性の4人にひとりは一生独身ですが、この独身の男性の半分は、
平均約67年でその一生を終えます。
客観的なデータを見る限り、日本女性は男性よりかなり得をしている様に見えます。
そんな事はない、日本は男尊女卑の国だし、女性は妊娠、出産、育児等で男性よりも負荷が掛かり、大変なのだ…という女性は多いと思いますが、私は女性の立場から思います。【日本の女性よ、男性にもっと優しくなりなさい】と…。
長く生きている私の目から見たら、今の女性はずるいのです。
今日でも女性は男性と比べて不利な面があるのは確かですが、その不利な面は昔に比べてかなり改善されており、様々な面で女性の自由や選択肢は大きくなり、今や多くの分野で男女同等の扱いを受けています。
一方で男性は、今でも昔ながらの価値観に縛られて生きています。
一家の大黒柱として、家族を養うのは当たり前。それが出来なければ、社会不適合者の烙印を押される。学校を卒業してから40年前後の長い間、雨露しのいで、妻子を食わせるのは当然の事として要求されますが、激しい競争に晒される男社会で、これがどれ程大変な事なのか、本当に理解している女性は少ないでしょう。それが証拠に男性の失業と自殺率は非常にリンクしてます。きっと男性も言いたい事は沢山あるでしょうが、小さい頃から男が泣くな、泣き言を言うなと育てられ、その様な事を口にすれば女々しいと言われる。なんですか?この女々しいという熟語は?女が泣き言を言っても男々しいとは言われませんよね。
その上、女性が自由を大きく得た事で、労働市場で男女が激しく競合し、多くの男性が女性に敗れ、多くの仕事を女性に奪われる事になりました。今や男性が一家の大黒柱として働く事で得られていたメリットは殆ど失われ、家族からの尊厳も得られず、責任だけは昔と変わらず重くのしかかる…。こういう構図が見えて来ます。
その一方で、女性は女性であった方が得な事に関しては何も言いません。
本当に男女同権を叫ぶのであれば、筋力が重要ではない分野では、
全て男性と同じ扱いで良いという事になりますが、それを望む女性は
多くないと思います。日本の女性の場合は稼ぐにしても、大黒柱である事を要求される事は少ない。家計を助ける程度に働くだけでも許容される。結婚において男性の年収は、女性にとっては決め手のひとつとなる非常に重要な要素ですが、女性の年収を重視する男性は少ない。これも、【男が女を養うのは当たり前】という固定概念を日本女性が持っているからに他なりません。だって男女同権なら、女が男を食わせても良いではありませんか?事実、主要国では女性が主に働き、男性が主夫しながら補助的に働くという例は珍しくありません。とりわけ日本の場合、国の補助制度の多くも女性に有利になっています。離婚すると親権はほぼ100%母親の物なりますし、母子年金はあっても、父子年金というものはありませんね。
家事労働に関しても、家電製品の進歩に伴い、その負荷は大幅に軽減され、非常に快適なものになっています。その昔、薪をくべて火を起こしたり、手洗いで洗濯したり、水汲みするのは大変な重労働でしたが、今はスイッチひとつで全て出来てしまいます。食材も加工食品も調味料も豊富で、簡単な調理で美味しい料理を作れます。私に言わせれば、昔に比べると今の家事などままごとに過ぎません。子育てが大変なら、協力してくれる姑と一緒に暮らすべきですが、それが嫌で核家族化しておいて、文句を言うのはお門違いです。
最近のネットでは、女性による、男性の尊厳を傷つける書き込みもよく見かけます。
日本人男性はモテない、軟弱だ、魅力がない、愛情表現が足りないとか、そこまで言うか!というほどに尊厳を傷つける書き込みです。
ここで挙げられるのは欧米との文化の違いだったり、体格の違いだったりしますが、文化とか、身体的な特徴でしか人を測れないのでしょうか?
また収入の高くない男性を蔑む言葉も頻繁に見かけます。道路工事でも架橋でも
何でもそうですが、インフラを維持する為には厳しい肉体労働が必要です。
収入が高いというのは、確かに価値がある事でしょう。ですがこうしたインフラが
提供されているからこそ、高収入の人も稼ぐ事ができるのです。
絶え間ない男達の力強い労働によって、これらは維持されています。
女性がそれを批判したり、彼等の存在価値を貶めたりする事が
良い事とは思えません。職業に貴賤はないのです。
それと日本は文化として、『小遣い制度』を多くの家庭が導入しており、
パートナー女性が働いていない場合でも、女性が金銭管理をする風習があります。
これが良いか悪いかは別として、事実としてこれを選択している夫婦が
多くいるわけです。夜遅くまで長時間労働に耐え、その給料は
全額パートナーの女性に渡し、その中から少ない小遣いをもらう。
その男性会社員の月平均のお小遣い額は月額約3万8千円(昼食代を含む)。
増税や物価高騰、円安等で家計が苦しめられている中でこの額では、
殆ど娯楽を楽しむ事は出来ないでしょう。
寂しそうに昼食の立ち食い蕎麦をすするおじさんを見ても、
絶対に馬鹿にしてはいけません。彼らの奮闘が今の日本の繁栄を支えているのです。
日本は世界の先進国の中で、異常とも言える程治安が良く、性犯罪も少なく、
世界3位の経済大国を維持する程にとても勤勉…これは日本人男性の素晴らしさによるものとも言えるのです。決して蔑さまれる様な存在ではありません。
それではここからは質疑応答の時間にしたいと思います。
質問がある生徒は、挙手して名前と出席番号を言ってください。
この授業と関係のない質問はしない事。それではお願いします」
「出席番号16番、最上駒姫です。
鈴音先生の経験からすると、結婚すべき男性とはどんな男性でしょうか?
それと、結婚後、男性と長く仲睦まじく過ごすコツはなんでしょうか?」
「普通の男性と結婚するのが一番無難で、幸せになる確率が高いと思います。
何が普通かと言えば、普通に働き、普通に稼ぎ、普通に健康で、普通の常識を持っているという事です。なんだ、そんな事かと思うかもしれませんが、この普通を維持するのが実はとても難しいのです。その様な男性は、最近は希少かもしれません。
面白味がないとか、そういう、喜びは相手から与えられるのが当たり前という発想は良くありません。この男は海の物とも山の物ともわからないが、自分は見どころがあると思うから、私の力で大成させてやる、と、女子でもそれくらいの心意気を持って欲しいですね。
結婚後は、【家族を養い守る】という、男の最重要で最大の贈り物をその時点で【100点満点】と評価する事。それ以上の事はちゃんと満点以上の事として要求し、満点以上と評価する事。心からそう評価するだけで、男は200点でも300点でも言えば喜んで用意してくれるでしょう。自己犠牲と献身は日本男児の本懐ですからね。
逆にそんな男の最大の贈り物をちょっとした贈り物と同じ、【1点】と踏みにじった挙句、【不足分を要求】しない事。女は得てして自分の採点基準でこんな事を当たり前にやってしまいがちです。そんな事を何度もしている内に、その女は男にとって、単なる金食い虫のハウスキーパーと同義語になります。そんな女と暮らすくらいなら、男はもっと安い値段で、文句も言わずに働くハウスキーパーを雇う事が出来る。そんな女にならない様に気を付けなさい」
ここで授業終了を知らせるチャイムが鳴りました。
「それでは今日はここまでと致しましょう。起立!礼!」
挨拶が終わると、母上様が春風の様に教室を出て行かれます。
女性が自由に社会に進出する事が出来る様になったのは素晴らしい事ですが、
同時にこの世界を担う異性のパートナーを大事にする事で、より良い世界を築いて
いければなぁ~と思います。女性は女性の大変な所があるのは当然ですが、
男性だって負けず劣らず…いいえ、きっとそれ以上に大変なのでしょう。
それを少しでも理解する様に努めたいと思います。
単なる金食い虫のハウスキーパーなんかにはならない様に、
私も気を付けなくてはいけませんね…。
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