第117話 教養授業27限目。鈴音先生、5つの後悔を語る…その①

こんにちは。如月雪音です。

楽しかった修学旅行から帰ってきて、今年も師走に入りました。

さて、今週も水曜日の3限目の授業が終わり、短い休憩時間の後、

4限目開始のチャイムが鳴ると、母上が教室にやって来ます。

「起立!」「礼!」

今週の教養授業の始まりですね!

いつもの様に母上様の優しい声が教室に響きます。


「今日は私が読んだ、死ぬ瞬間の5つの後悔という

本の内容ついて話してみたいと思います。

皆さんはまだ10代なので、死に関して深刻に考えたりする事はないと

思いますが、考えてみれば、人は自分の寿命の残りを知ってはいません。

誰しももしかしたら明日には死んでしまうかもしれない。

それが生きるという事なのです。

ですから1日1日を大切に生きなくてはいけないのは当然なのですが、

人間というものはついつい惰性で日々を送りがちです。

しかし、寿命が尽きる寸前になってそれに気が付いても遅い。

自らの寿命が見えてしまう状況になった時、人はどの様な想いに

囚われるのか…。筆者はヘルパーの仕事を通じて多くの人々を見送る中で、

人は人生の最後に5つの後悔をする事が多いと述べています。


その①

【自分に正直な人生を生きれば良かった】

その例のひとりとして、筆者はグレースという女性のケースを挙げています。

彼女は結婚してから50年間以上、周囲から求められる役割を果たして来ました。

可愛い子供達を育て上げ、孫にも恵まれました。

しかし彼女の夫は大変な暴君で、細かな事まで彼女に指図し、

彼女の自由な意思などどこにもない様な状況でした。

彼女は何十年もそんな辛い環境の中に居て、心の中では

常にシンプルで自由な生活を望んでいたのです。

暴君である夫が加齢によって弱り、老人ホームに入る事を承諾した時、

グレースも家族も、本当に開放された想いになりました。


しかし、その幸せは束の間の事でした。

なぜなら、この時グレースは既に80歳を越える年齢になっており、

年齢の割には健康で、スタイルも悪くはなかったのですが、

ようやく自由な新生活を始めたと思ったある日、

彼女の体調が急速に悪化したのです。

病院で診察を受けた所、既に回復不能な不治の病にかかっており、

余命幾ばくもないない事が判明しました。

それを知った彼女は絶望のあまり涙を流し、筆者にこう訴えます。

『私、どうしてやりたい事をやらなかったのかしら。どうして夫を

のさばらせていたんでしょう?どうして強くなれなかったのかしら…』


更にこう続けます。

『私を見てちょうだい。もうすぐ死ぬのよ?死ぬの!

自由になって自立する日をずっと待っていたのに、

それが叶った時にはもう遅いですって?


ねえ、あなた、自分がしたい事を誰かに邪魔させては駄目よ。

お願い!死にかけている私に約束してちょうだい!』


その②

【働き過ぎなければ良かった】

その例のひとりとして、筆者はジョンという男性のケースを挙げています。

彼は会社員として成功し、妻のマーガレットと5人の子供を育て上げ、

経済的にも恵まれ、引退後は悠々自適の生活が約束されていました。

彼は成功によって得られた仕事上での地位や、世間や友人達の間で

高い地位にいられる事に満足しており、

普通なら引退する年齢になっても、仕事を続けていました。


一方、妻のマーガレットは寂しくて、ジョンに引退して欲しいと強く懇願します。

彼女は第2の人生で、ジョンとの新たな絆を見つけたがっていました。

彼女は長年、旅行のパンフレットを熟読し、国内外の色々な所に行って

みようとジョンに提案していましたが、ジョンはそれには同意するものの、

仕事の方を優先し、結局マーガレットの願いが叶う事はなかったのです。

彼女はとうとう15年も待ち続け、ある日体調を崩します。


家族の願いも空しく、その時彼女は既に不治の病に侵されていました。

もう余命幾ばくもない状態だったのです。

この時になって、ジョンはようやく自分の愚かさに気付きます。

『私はなんて馬鹿だったんだ!自分の人生を本当に支えてくれたものに、

私は十分な時間を費やさなかった。美しく、大切なマーガレットに!

妻はいつも私を愛し、支えてくれた。

それなのに、私は彼女の為に家にいようとはしなかった』


妻が亡くなってから後、ジョンは長い間孤独な暮らしを続け、

やがて体が衰えると、老人ホームに入ります。

そしてジョンにも不治の病が発覚します。


筆者にジョンは語ります。

『ねえ君、僕が人生について君に教える事があるとすれば、

それは後悔するくらい働き過ぎるなという事だ。

人にどう思われるかなんて、気にしなければ良かったんだよ。

どうしてマーガレットの死が迫って来る時まで気付かなかったんだろうね?

妻はとても面白い人でもあったんだ。一緒に旅行したりしたら、

きっととても楽しかったはずだ!


本当に、家族以外にこの世に何か良いものを残せるとしたら、

この言葉を残すよ。働き過ぎるな。バランスを失わない様にする事。

仕事だけが人生にならない様にしろ』


その③

【思い切って自分の気持ちを伝えれば良かった】

その例のひとりとして、筆者はジュードという女性のケースを挙げています。

ジュードはとても裕福な家庭に生まれ、若い頃は平均的なサラリーマンの

年収を越える様な高級車に乗り、高級なデパートのみに出入りしていました。

その一方で理想的な男性と良い結婚をする様にと、

両親から強いプレッシャーをかけられていたそうです。

けれど彼女が選んだのは、エドワードという画家でした。

彼は画家としてそれなりの収入は得ていましたが、

労働者階級であり、ジュードの両親はそれが不満で結婚に反対します。

しかしジュードは自らの意思を通し、エドワードと結婚します。

結果、両親とは疎遠になります。両親にはジュードの結婚が許せなかったのです。


結婚から数年、ジュードは女の子を授かり、ライラと名付けました。

孫の顔を両親に見せたかったジュードは、何とか両親と和解しようと努め、

父親とはそれなりに和解します。父親は孫のライラをとても可愛がり、

ライラの為に特別に家を購入してくれます。

しかし母親とは和解出来ずにいました。

父親はジュードと和解した数年後に亡くなります。


それから暫くの間、彼女の人生は上手くいっていたのですが、

44歳の時に不治の病が発覚し、余命幾ばくもない事を医師から告げられます。

それを知った彼女は、長年疎遠になっている母親に手紙を書きます。

この手紙は彼女の死後、母親に渡される予定だったのですが、

夫のエドワードは衰弱したジュードを見て、彼女の気持ちを伝えるべく、

母親にその手紙を送ります。

手紙には母親を愛していた事、今も愛している事が綴られ、

大切にしてきた母親との思い出や、教えて貰った事などが書かれ、

否定的なものは全く書かれていませんでした。


それから数日して、ジュードの母親が突如彼女の病室に現れました。

母親は涙ながらにジュードの手を優しく握りしめ、

それからはジュードが亡くなるその日まで、毎日彼女の病室を訪れたのです。


『人は生活に追われて、家族でも友人でも、大事な人達と十分に

過ごせなくなりがちだわ。けれど絶対に大事な人達との関係を取り戻し、

素直にならなくては。みんな自分が死に直面するか、

誰かを亡くして罪悪感を抱えて生きるようになるまで、

これがどれほど大事な事なのか、気付かないのよ。

もう遅いって事にならない様にしないとね。

いつそうなるか、誰にもわからないわ。

愛している人にはそれを伝えるべきよ。感謝していると言うべきなのよ。

相手がこの率直な言葉を受け止めてくれなくても、期待とは違う

反応をしたって構わない。伝えた事が大事なんだから。

人は勇気を出して、自分の気持ちを伝えなくてはならないわ』


ジュードは生前、こう語っていたそうです。


その②に続く。









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