第102話 おがちんの怪談…その④

おがちんの怪談が終わった瞬間だった。

突然、【パン!パパン!】

と、ラップ音が激しく室内に木霊した。


『きゃ~~~~!』


薄暗い部屋の中で悲鳴を上げた女性達は、

手近な人に抱き着いた…!

俺にも何か特別に柔らかなものが巻き付いて来た。

誰かと思えば…雪音だった。


俺は暫く前に図書館やネットなどで、八百比丘尼に関して調べた事がある。

その中の八百比丘尼の性質のひとつに、

【八百比丘尼の体はこの世の物とも思えない良き抱き心地であり、

その香り、肌のきめの細やかさ、体のしなやかさ、柔らかさは筆舌に尽くし難い。

故に一度八百比丘尼の体を知ると、男は比丘尼以外の女に興味を失う。

八百比丘尼はその性質により身籠る事が少なく、

しかも女子しか産まない為、子孫繁栄に繋がるとは言い難く、

その為、傾国の美女とも呼ばれる。それ故かつて武家では、

八百比丘尼を妻や妾に抱える事を禁忌とするところもあった…】

と、書かれていたのを思い出した。


抱き着いてきた雪音の女の子らしい甘い香りと体のしなやかさ…。

胸の柔らかな、かなり大きな膨らみも、

しっかりと俺の腕のあたりに当たっている。

俺は一瞬で恐怖よりも、雪音の体の方に気持ちを持って行かれた。

【むむむ…これは役得…不可抗力…至福だぁ~~!】

「きゃ~!大橋様!大橋様!」

雪音はそれどころではないらしく、恐怖に震えて眼に涙を溜めている。


と、暫くしてパチン!とおがちんが部屋の明かりをつけた。

見ると、おがちんにはリーリャ、アレックス岡本にはさな子さんがしがみ付き、

鈴音先生には天音が抱き着いている。

みんな思った以上に怖い話には弱かった様だ…。

もしかしておがちん、これを狙ったか?


「おおう…どうだ、夏の夜の定番とは言え、少しは肌寒くなったか?」

おがちんが言うと、

「緒賀先生、この話は、ほ、本当の事なんですか?」

さな子さんが、赤い顔をしておがちんから体を離しながら聞いた。


「多少脚色はしてあるが、7割くらいは本当の話だぞ。

俺もあの時はビビったからな。

だからもう二度とヒッチハイクはやらない。

幸い、その後俺と中野には、特に何も悪い事が起きていないのが

救いだな…。まあ、この世にはまだまだ不思議な世界があるという事だ」


「こりゃ、大橋殿、いつまで雪音姉様を抱きしめておるのじゃ!」

天音に言われてそれに気付いた雪音が、真っ赤な顔をして

俺から離れた。物凄く残念だが、その雪音の表情もまたとても可愛い。


おがちんの話があまりに怖く、ラップ音まで鳴った為、

結局その日はそれでお開きとなり、女性陣は女部屋に帰って行った。

俺達はその後おがちんともう一度風呂に行き、湯舟に浸かった。


「どうだ、中々役得で嬉しかっただろう?」

そういうおがちんに俺は聞いた。

「もしかして、最初からあれを狙ってたんですか?」

「まあ、それはある。男女交互に座らせたのもそうだし、

最後に起きたラップ音は、パーティーとかで使われる、

【ラップ君】というおもちゃグッズを鳴らしただけだ。

ワイヤレスリモコンでラップ音が鳴らせるやつだな」

おがちんはにやにやしている。


「で、あの話はどこまで本当なのかしらん」

アレックスの問いに、

「トイレで女が泣いていて消えたのは実話だ。

変なキャンピングカーに乗ったのも事実だが、

山の上とかには行っていないし、普通に運転手と同乗者が

オカマでヤバかっただけだな。途中で上手く降りて逃げたよ。

そのあたりの話を組み合わせてでっち上げたんだ」


「なる程、お話としては中々の出来だったかしらん。

さな子さん、柔らかくて良い匂いがしたかしらん」

アレックスの野郎も満更ではなかった様だ。

俺も改めて雪音の体の感触を思い出しながら、悦に浸っていた。


翌朝、朝食を終えて部屋に帰って来てから、俺とアレックスは

おがちんのパーティーグッズ、ラップ君を借りて鳴らせてみようとした。

ところが、リモコンをいくら押しても、何故か音が鳴らない。

電池が切れているのかと思って、電池交換用の蓋を開けて見ると、

何と電池自体が入っていない。

「じゃあ、昨日のラップ音って、まさか…???」

俺とアレックスが眼を見合わせていると、

「まあ、怖い話をしていると、霊が集まって来るというからな。

そういう事もあるんじゃないか?」

おがちんが、カッカと笑った。


いやいやいやいや…?

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