第92話 東京ブラック・ジャイアンツVS大阪ブラック・タイガース①

2023年7月某日…

地獄の前期試験も終わり、またもどうにか赤点を回避した俺(大橋)は、

終業式前のとある週末の土曜日、鈴音先生に如月姉妹、リーリャ、

おがちん、アレックス岡本の面々と、西武球場に来ていた。


今年はS・ジョブズ2世のNPB(日本プロ野球機構)の改革で、

セ・パ両リーグの交流戦が全対戦の60%と大幅に増えた事から、

交流戦が続いているのだ。セリーグもDH制を採用し、打力重視になっている。

外国人枠も廃止された事から、各チームとも外国人選手が大幅に増えていた。


鈴音先生は知る人ぞ知る野球好きだし、如月姉妹もその影響か、野球好き。

おがちん一家は代々熱烈なヤクルトファンなのだとか…。

俺は元々巨人ファン、アレックスの野郎は東京出身のくせに阪神ファンと、

好みはそれぞれだが、皆、野球好きなのは変わらない。

リーリャはロシア人だから、まあ、これからだな…。


今日の対戦は、鈴音先生が前々から熱望していた、今年設立された

異色の2チーム…東京ブラック・ジャイアンツと、

大阪ブラック・タイガースによるデーゲームだ。

アップル社のS・ジョブズ2世の肝いりで設立されたこの2球団、

ブラック・ジャイアンツはパリーグ所属、

ブラックと言いながら、実際には色々な人種の混在したチーム…。

ブラック・タイガースはセリーグ所属、意図した訳ではないらしいが、

所属選手は全員黒人…というチームだ。


両チームともスピード&パワーを標ぼうし、

いずれもセリーグとパリーグのリーグ戦首位を走っている。


良く試合が見れるだろう…という事で、

外野席ではなく、3塁側の内野席に陣取った俺たちは、

まずは試合前のエキシビションに注目した…。

マウンドに上がったブラック・タイガース先発のサチェル・ペイジ投手…。

ホームベース上には、ちょうど打者の腰の高さくらいの小さな台座があり、

そこに硬式ボールが1個置かれている。


おもむろに振りかぶったサチェル・ペイジ投手がマウンドからボールを

投げると…おお!ホームベースの台座上にあるボールに見事命中して、

そのボールを弾きとばした。

「凄い!噂通りの素晴らしいコントロールですね!」

ビール片手の鈴音先生が感嘆の声を上げる。

「一球くらいなら、まぐれってこともあるっしょ…」

同じくビール片手のおがちんはにやにやしている。


しかしそれはまぐれなんかではなかった。

何とサチェル・ペイジ投手は、

その後10球連続でホームベース上のボールを弾き飛ばしたのだ…。

「前言撤回っス。まぐれじゃないっすネ…」

おがちんが頭を掻いている。


さて、試合開始前…。

三塁側の大阪ブラック・タイガースのベンチ前では、

恒例の【打順じゃんけん】が始まった。

その日の打順を先発選手全員がじゃんけんして決めるのだ…。

阿保かと思われるかもしれないが、彼らは全員大真面目でこれをやっている。

1番を獲得したジョシュ・ギブソン選手がガッツポーズをしている!

【最初はグー!じゃんけんポン!!】

日本語で行われるこのじゃんけん…選手の打順が決まる度に、

スタンドからは拍手が起こった。


いよいよ試合開始!

先攻のブラック・ジャイアンツの一番は、猫一郎・鈴木だ。

俊足強肩好打のライトフィールダーである。

左打席に入った猫一郎は、早速投手に向かってバットを向ける

独特のポーズを決めると、構えに入った。


一方、ブラック・タイガース先発のサチェル・ペイジは、にやにやしながら

余裕の表情…、審判の手があがると同時に大きなワインドアップのモーションから

第一球を投じた。【ズバン!】大きなミットの音と同時に、外角低め一杯のストレートが決まる。ストライク!球速表示は153㌔…

「おお!中々良い球ではないか!」天音が歓声を上げる。

と、そのボールを取るなりキャッチャーのギブソンはマスクを脱ぐと、

タイムを取ってマウンドまで行き、サチェルに何やらまくし立てている。

「サイン違いかなんかかな…」

俺が言うと、鈴音先生は…

「今、読唇術で口の動きを見ましたけど、違いますね…」

流石鈴音先生、読唇術も出来るらしい。

「なんて言ってるんですか?」


それを聞いた鈴音先生は、ニコニコしながら言った。

「おい、サチェル!チェンジアップが必要な時は、

俺の方から要求する。真面目にやるのだ。速球で来い!…」


【153㌔がチェンジアップってまじかよ?】


俺がそう思っている間に、サチェル・ペイジが2球目を投じた。

【ズバン!】今度はど真ん中のストレート…球速表示は171㌔…。

猫一郎…もあまりの速さに茫然と見送る。

【おいおい…】俺の眼が点になっている間にサチェルが3球目を投じた。

【ズバン!】猫一郎もバットを振るが空振り三振…。球速表示は172㌔…。


俺の眼が点になっている間に、3者三振であっという間に1回の表が終わった。


その②に続く…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る