第93話 東京ブラック・ジャイアンツVS大阪ブラック・タイガース➁

その裏、ブラック・ジャイアンツの先発は、

デントン・トゥルー・【サイクロン】・ヤング。

ガタイの良い長身の白人投手である。

「たしか、MLBのサイヤング賞って、

彼と同名のピッチャーを記念して設けられていたかしらん…」

アレックス岡本の言葉に、「サイヤング賞って、その年のMLBで一番活躍した、

先発、完投型の速球派投手を記者投票で選ぶ…日本の沢村賞に相当するやつだぞ」

と、おがちんが答えた。

【いくら何でも名前負けだろう…】と、俺が思っていると、

こちらものっけから160㌔代半ばのボールをズバズバ投げ込んでくる。

ブラック・タイガースの各選手もマン振りでこれに対抗するが、

あまりの速さにバットは空を切り、こちらも三者三振で終わった。


【うおおお~!】

凄まじい投球に球場の熱気も凄い事になって来た…。

【やるかしらん!】

アレックスの野郎も興奮している。

いや、こいつら確かに化け物だ…。


化け物級の両投手の投げ合いで、5回終了まで0-0。

サチェルはチェンジアップを打たれたヒットが1本だけ。

ヤングも同様で3安打に抑えている。

6回表、円陣を組んだブラック・タイガースのキャプテン、

ジョシュ・ギブソンは叫んだ。

『てめ~ら、いつまでも白黒野郎共に好いようにされてるんじゃねぇ~!

男を見せろ!』


その回、先頭のギブソンはいつになく不敵な表情で、低い姿勢に

バットを構えた。そしてヤングの初球、164㌔のストレートを思い切りひっ叩くと、

打球は快音を残し、遥かバックスクリーンの上を越えて消えた。

見た事もない様な、だ、大ホームラン…。

バットスイングの風圧が内野席まで聞こえる…

そんな嵐の様な振りだった…。


続く2番クール・パパ・ベルの当たりは三遊間の深い強烈なショートゴロ、

ショート、ホーナス・ワグナーはこれを横っ飛びで取ると矢の様な送球を

一塁に送る…ギリギリの判定は…セーフ!!

さて、そこからはクール・パパの独断場だった。

瞬く間に2盗、3盗を連続で決める…。

2アウト後、ヤングが足を上げると同時に本塁に向かってスタート…。

まさかのホームスチールである。

凄まじい砂ぼこりのクロスプレー…判定は、【セーフ!】。

この回2点目の得点である。


「ベース一周12秒の俊足は伊達じゃないですねぇ~」

鈴音先生が眼を丸くしている。


ブラック・ジャイアンツはその裏、8番のセンター、

タイラス・レイモンド・【タイ】・カッブがサチェルの初球、

165㌔のストレートを叩き、センター前に痛烈なゴロを放つ…。

センター前ヒットと思いきや、前進守備をしていたクール・パパ・ベルは、

ボールを捕ったかと思うと、それを矢の様に一塁へ送球…。

判定は【アウト!】…ライトゴロだったら見た事もあるが、

センターゴロなんて見るのは生まれて初めてである…。

猫一郎も真っ青の強肩だ…。

サチェル・ペイジがニヤニヤしながら彼に手を振っている。


そのまま試合は進み、0-2のスコアでブラック・タイガースリードの

9回裏…。ここで俺たちはさらに凄いものを見る。


先頭の猫一郎・鈴木が打席に入ると、いきなり彼を申告敬遠。

続く2番、サード、バック・レオナードも申告敬遠。

3番、ファースト、ルー・ゲーリッグも申告敬遠。

ノーアウト満塁である。


するとサチェルは、マウンドから後ろの野手に振り返って、

こっちに来るように…おいでおいで…と手を振る。

すると、キャッチャーのギブソンを除く、全選手がベンチへと帰った。

困惑する審判をよそに、サチェルは投げて良いか?と審判に話かけている様だ。

打席に入った4番DH、ジョージ・ハーマン・【ベーブ】・ルースは怒り心頭、

歯ぎしりしている。何しろノーアウト満塁の状態で、ピッチャーと

キャッチャーしか守備についていないのだ…。

「野郎、ふざけやがって!思い知らせてやる!」

球場はもう、自分の声さえ聞こえない程の熱狂に包まれている。


熱狂の渦の中、サチェルが振り被って初球を投じる。

ど真ん中のストレートだ!

ルースはそれにマン振りで応じる。

空振り…球速表示177㌔…。


続く2球目…これもど真ん中のストレート。

ルースはまたもマン振り、あまりの勢いに

バットを振ったあと、もんどりうってひっくり返る…。

またも空振り…球速表示…179㌔。


「この畜生!舐めるな!」

ルースは歯ぎしりしている。

そんなルースをよそに、サチェルはニヤニヤしながら振りかぶる。

3球目…またもど真ん中のストレート。

もちろんルースはマン振りで応じる。

豪快な空振り…三振である。球速表示…181㌔。

もはや人間業ではない…。


「ガッデム!」

ルースはバットを地面に叩きつけると、サチェルの方を見る。

しかし、その顔は清々しい笑顔であった。


続くテッド・ウイリアムズ、フランク・ロビンソンも、

サチェルのボールに物凄いマン振りで応じ、いずれも三振…試合は終わった。


【うおおおおおおおお~~~~!】

球場の興奮は最高潮である。


「あらあら…ビールだけなのに酔っぱらってしまいましたぁ~」

興奮のせいか…鈴音先生が珍しくヘロヘロである。

外野席ではブラック・タイガースの応援団が、勝利の阿波踊りを踊っている。

『あほれ!投げる阿呆に打つ阿呆!同じ阿保なら打たなきゃ損!損!

あら、えらいやっちゃ、えらいやっちゃ、よいよいよいよい!』

酔っ払ったおがちんも、ヤクルト応援用の傘をさして一緒に踊っている…。


全く、世の中、阿保が多すぎる…。

だが、それがいい…!

清々しい感動にひたりながら、俺はそう思うのだった…。


※実際のサチェル・ペイジ投手の活躍は、以下に書きましたので、

宜しければ、遊びに来て下さりませ!

https://kakuyomu.jp/works/16816452220043604666


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