第88話 国際堕落研究会!

2023年6月某日。

早苗実業学校高等部 文化部に所属する

【国際堕落研究会】の部室では、ビル・G・Jrと2年G組で

この部の部長を務める坂口安吾が、会話を交わしていた。


「オゥ~、ミスター安吾、ミーのお爺さんがとうとう離婚してしまいマシタ!」


それを聞いた安吾は爽やかな笑顔で答えた。


「君のお爺さんは、結婚などと言う、世間が作った物差し、

価値観、その様な押し付けから自由になったのだ!

君のおじいさんは、中々の人物ではないか!

好きなものを好きと言い、嫌いなものを嫌いと言う。

それを正直に言って何が悪い…。


武士も騎士も聖女も堕落する。生きよ堕ちよ、その正当な手順の他に、

真に人間を救い得る便利な近道が有りうるだらうか…」


「マア、そういう考え方モあるのでショウガ、ワタシのオジイサンは、

同一OS上にバッティングするアプリケーションソフトを、

インストールし過ぎたとオモイマス。

バックアップは取ってアルのでショウカ?」


「バックアップがどういう意味かはわからぬ。

私は性という奇怪な力にただ茫然たるばかりである。

私は二十(はたち)の美女を好むが、

君のお爺さんも亦二十の美女を好んでいるのか?


その様に君のお爺さんの姿が明確なものなら、

私は安心する事が出来るし、そこから一途に二十の美女を

追っかける信念すらも持ちうるのだが、生きる事は

もともとわけの分からぬものだ」


安吾が怪気炎を上げていると、

同じ部屋にいる三島由紀夫が口を挟んだ。


「ビル・Gとやら、つまらんことを心配せずとも好かろう。

なる様にしかならぬのだ。君のお爺さんは世界的大人物なのだらう?

その様な大人物は、大人物同士で付き合う。ひとの視線など気にせず、

大きな音を立ててスープをズズズ!と吸い、平気でお互いを莫迦にし

こき下ろし、大きな音で放屁しゲップして、下品に笑ふものだ。

大人物とはそういうものだ。それに私も二十の美女を好む」


「オゥ~、ミスター由紀夫、ミーはミス雪音…

十六の美女を好みマス…」


ビル・Gは赤い顔をして答えた。


それを聞いた由紀夫は、夕焼けせまる窓の外に視線を向けつつ答えた。


「十六の美女か…確かにあの娘、背丈は低いが、十六にしては

中々に発育が良い。容姿も可愛らしく、肌も博多人形の様に白い…

化粧など不要な程にな。実にあと数年もすれば食べ頃だらう」


「うむ。それに関しては私も同感だが、それでも私は二十の美女を好む」


安吾が頷いている。


「オゥ~ノ~、ミスター由紀夫、安吾、

雪音はワタシのモノです。渡しまセンヨ!」


ビル・Gの抗議を受け流しながら、安吾は更に話を続ける。


「まあ、彼女はまだ誰のものと決まったわけでは無い。

G組のクラスの娘達はいつも爽やかに笑っている…。

教室の窓際で日向ぼっこをしたり、この年頃の娘達は未来の夢で

一杯で、現実など苦にならないのであらうか…

それとも高い虚栄心の為であらうか…

私は教室に娘達の笑顔を探すのが楽しみであった…」


「お、お茶が入りましたかしらん…」


調度その時、この部に入ったばかりの太宰治が着物姿でお茶を運んできた。

安吾はそのお茶をひとくち…大きな音でズッ啜ると、


「人は世が作ったからくり、しがらみ、そして自らが作った同じもの

から自由になり、内なる自己と対話せねばならない。

その為には…人は正しく堕ちる道を堕ちきる事が必要なのだ。

堕ちる道を堕ちきる事によって、自分自身を発見し、救わなければならない…」


「その通りだな…」


三島由紀夫が言った。


「宮本武蔵は武士が作った士道などというものに囚われることなく

自由だった。そして誰よりも強く、孤独だった。

であるが故にその名を轟かしたのだ。

真に堕ちるという事は、からくり、しがらみから自由になる事だが、

そこには真の強さ、孤独に耐える覚悟がなければならぬのだらう」


「うむ。それにつけても私はやはり二十の美女を好む…」


安吾がカッカと笑う。


【オゥ~、からくり、しがらみから自由になるコトト、二十の美女を

好むトコロの関連性が今ヒトツ見えマセンガ…。

フフフ…それでもミス雪音はワタシのモノデス…】


その日の部室では、終始3人の大物達による不気味な笑いが木霊していた…。

結局世の理というものは、こういう大物達によって

作られていくものなのかもしれない。


夕焼け差し込む部室の中の…熱い堕落論は…

いつ果てるともなく続くのであった。

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