第87話 太宰とリーリャがやって来た!

6月…梅雨に入って間もなくの月曜日。

1限目は週初めのHRの時間である。

毎週月曜日の1限目はHRに充てられており、

その週の行事や連絡事項の通達が行われる。


チャイムが鳴ってまもなく、

鈴音先生が教室に入ってくるのと同時に、

ふたりの見知らぬ生徒も入って来た。

ひとりは割と長身で長髪の男子生徒、

もうひとりは見るからに外国人…

金髪、碧眼、小柄で色白な眼を見張る様な美少女。

教室に大きなどよめきが起こる。


「さて、期の途中…突然ではありますが、

今日からふたりの転入生がこのクラスの仲間入りをします。

みなさんから見て右側の男の子が太宰治君、

左の女の子がリーディア・ヴィトヤクさんです。

太宰君は青森の学校からの転入、

ヴィトヤクさんはロシアからやって来ました。

それでは太宰君から自己紹介をお願いします」


そう言いながら鈴音先生はふたりの名前を黒板に大書した。

鈴音先生に言われるがまま、まずは太宰治が自己紹介を始める…。


「だ…太宰…治です。撲は……文学を志し、

青森から東京に出て…来たのかしらん」


【太宰治キター!!!!!】

と思ったのは、きっと俺(大橋)だけではないだろう。

アレックス岡本の野郎は、かなり複雑な心境に違いない。


「目下…処女作…【最晩年】を執筆中かしらん。

ちょっと…と…どもる事がある…でもゆ…赦して欲しいのかしらん…」


話しながら何故か奴は段々涙目になってきた…。

花粉症だろうか…。いや時期がずれてるな…。


「啊或…啊或…啊或…」


「う…う…生まれて来てすいません!!!!」


【決め台詞キター!!!!】

と思ったのは、きっと俺だけではないだろう。


太宰治は決め台詞を叫ぶと、深々と頭を下げた。


『ケッ!軟弱な野郎だ!』

俺の傍の三島由紀夫が怪気炎を上げている。


『彼は…すでに堕落しているが、まだ堕落が足りない…。

本当の堕落の有り方について、私と語るべきだらう…

彼はもっと…堕落すべきだ!』


国際堕落研究会の部長、坂口安吾が呟いている。


いやいやいやいや…うちのクラスって、

どれだけ多士済々なんだよ…。


続いて、柔らかな可愛らしい声が響く…。


「ワタシの名前ハ…リーディア・ヴィトヤク…デス!

ロシアからヤッテキマシタ…。

愛称はリーリャ…です。リーリャとお呼びクダサイ…」


この娘は…本当にまるでロシアのアイススケーターみたいな感じで、

誰が見ても惚れ惚れする様な愛らしさだ…。

10代のロシア人少女の美しさは世界的にも有名だが、

彼女はその中でも飛びきりに違いない…。


「ワタシはまだ日本にキテカラ半年ホドデス…。

ナノデ、日本語がマダ不自由デスガ…

頑張ってお勉強シタイと思ってイマス!

皆さん、ドウゾ宜しくお願いシマス!」


リーリャはそう言うと、深々とお辞儀した。


「それではふたりとも後ろの空いている席に座って下さい。

皆さん、このふたりはこの学校に来たばかり…

学食の使い方、トイレの場所、自動販売機の場所…

わからない事が色々あると思うので、助けてあげて下さい。

仲良くするのですよ!」


「はぁ~い!」


鈴音先生の言葉にみんなが答える。


「リーリャ、お久しぶりなのじゃ…」

天音が自分のすぐ後ろに座ったリーリャに声を掛けている。

「あ、天音さん…お久しぶりデス…!」


【へ~、天音って、リーリャの事知ってるんだ…。てことは雪音も知り合いだな】

俺がそう思っていると、雪音も彼女の傍に行って声を掛けている。

これは後で色々聞いてみないとな…と俺が思っていると、

俺の後ろの席のアレックス岡本の野郎が、

またも軽く万歳しながらヒャッハーしている。

まったく懲りん奴だ…。


まあ、良いか…。とりあえずこのクラスはより華やかに…、

そしてより愉快になるのではないか…?

それだけは間違いない…と俺は思うのだった。


堕落研究会って、アレックス岡本の野郎も興味あると

言ってたから、今度覗いてみるか…。

太宰と坂口の会話が面白そうだ!

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